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LOST MY WAY  (1話)
明け方の5時過ぎ 

俺は目を覚ますと自分の隣で小さく寝息を立てている美鈴(みすず)の髪をそっと撫でた。

もう誰も愛さないとあの時誓ったのに。

いつか全てを失うくらいなら、もう愛なんていらない。

そう言って彼女の亡骸を抱きしめたのに、どうして俺はまた人を愛してしまったのだろう。

人を愛してしまえば、いつか自分の手で殺してしまう。

それが分かっていてどうして俺はあの時、美鈴の愛を受け入れてしまったのだろう。




美鈴の細くて白い首筋に着いた二つの赤い噛み痕に触れ「ごめん」小さく呟くと、彼女がゆっくりと目を覚まし「カズ」俺の名前を呼んだ。

「おはよ。起こしたか?」

「ううん」

小さく首を横に振ると美鈴は俺に体を寄せギュッと抱きついてきた。

「カズ、何処にも行かないでね」

「どうした?」

「カズが何処かへ行っちゃう夢みたの。
あたしを一人置いて消えちゃう夢」

俺の思いに気付いたかのような美鈴の言葉に俺は黙り込んだ。

「どうして何も言ってくれないの?
ずっと一緒にいるって言ってくれないの?」

「ずっと一緒にいたら、いつか俺はお前を殺してしまう。
もう愛する人を死なせたくないんだ。だから・・・」

すると俺の言葉を遮るように唇を強く押し当てる美鈴。

「あたしはカズを失うくらいなら死んでも構わないよ。
だってカズを失ったら、あたしは生きていけなもの。
あたしが、あたしを殺すだけ。
ねぇ カズお願いだから、あたしから離れていかないで。
あたしはカズに愛されたまま死にたいの」

俺にしがみ付き小さく震える美鈴の肩。

どうして俺は人間に生まれて来なかったのだろう。

どうして俺は人の血を吸わなければ生きていけないのだろう。

俺が美鈴を愛さなければ、こんな思いはしなかったはずなのに・・・どうして。




200年以上前 俺には愛している人がいた。

彼女を愛した時俺の体は彼女の血しか受け付けなくなり、俺は自分が生きていくために彼女の血を吸い続けた。

「どうせあと僅かな命。病に命を奪われるくらいなら、いっそあなたの為に死にたい」

泣きながら懇願する彼女の思いを断ることが出来ず、俺は生きていく為に血を与えられ続けた。

そして彼女を愛して1年が過ぎた6月。

シトシトと雨が降る夜、彼女は俺の腕の中で息絶えた。

幸せそうな笑みを最後に見せて。

それからは誰の事も愛さず、ただ一人静かにこの命が途絶えることを待つ日々。

1000年の時がただただ過ぎ去るのを俺は待っていた。自分の命が尽きるその時を。

それなのにある日突然俺の前に現れた美鈴に一瞬で心を奪われ、俺の体はまた愛する人の血しか受け付けなくなってしまった。




自分が生きていけるギリギリの量の血を、少しだけ分けて貰う。

同じ人から2度貰う事はせず、俺の記憶も消しさる。

そうやってひっそりと生きてきたのに・・・。

それなのに、どうして俺は同じ過ちを繰り返すのか。



初めて美鈴に触れた時、忘れていた温もりを思い出した。

愛しい人と肌を合わせた時の優しい気持ちと幸せな時間。

そしてそれを失うことの怖さ。

もう離れよう・・・美鈴の為に。自分の為に。

今まで何度そう思ったかわからないのに、俺は愛しい人の温もりを手放せない。

彼女を愛する日々は幸せな筈なのに、俺は迷い苦しみながら生きている。




つづく・・・





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LOST MY WAY (2話)
美鈴と愛し合うその時だけ、俺は彼女から少しだけ命を分けて貰う。

俺が生きて行く為に必要なギリギリの量の血液。

それでも確実に彼女の命を縮めてしまう愛の行為。

透けるような白い美鈴の肌がピンク色に色づいて、高揚を抑えきれない彼女の声が甘く零れる。

互いの思いを確認するようにゆっくりと愛し合い彼女の中に自分の愛を解き放つ時、俺は彼女の首に牙を立てて命を永らえる。

美鈴が意識を飛ばす瞬間、少しでも痛みを味合わせないその時に・・・。




愛し合った後美鈴はいつも深い眠りにつき、少しずつ意識が戻り始めるとうわ言の様に俺の名前を呼ぶ。

「カズ・・・か・・ず」

「ここにいるよ。俺はここにいる」

俺の言葉にゆっくりと目を開けると、美鈴は安心したような笑みを漏らす。

こんなにも愛しい人を、もうすぐ失ってしまうなんて。

溢れ出しそうな涙を隠し背中を向けると「あたしが死んでも自分を責めないでね」美鈴がそう口にした。

「カズは1000年もの時を生きる人だから、永遠の愛なんて望めない。
ずっとあたしだけを愛してなんて言えない。
だけどあたしの命が尽きる時、カズへのあたしの愛は永遠になるんだよ。
カズに愛されて永遠の愛を手にするあたしは幸せだから、自分の事を責めないで」

「なんで・・・なんで、そんなにまで俺の事」

「あたしね、ずっと、ずっとカズの事愛してたよ。
生まれるよりも、ずっと、ずっと前から。
あたしはカズを愛する為に、カズに愛される為に生れて来たんだから」

「生まれるよりも前から?」

「ねぇ カズ、いつになったら気付いてくれるの?」

「・・・・?」

「あたしの事、忘れちゃったの?」

「美鈴?」

「あたしの本当の名前は、すずだよ」

その名前を聞いた瞬間、俺の心臓は一瞬時を刻む事を忘れた。

「お前、何言ってんだよ」

「あたし言ったでしょ?生まれ変わってもあなたの事を愛するって!
あたしちゃんと生まれ変わってカズに会いに来たんだよ」

200年前俺が愛し死なせてしまった女性の名前は「すず」

自分は彼女の生まれ変わりだと言って美鈴は一生懸命に説明し始めた。

「カズに初めて会った時、やっと会えたって思ったの。
だけど、どうしてかは分からなかった。
でもカズに愛される度に、抱かれる度に少しずつ思い出していったの。
あたしは今も、昔も、ずっとカズだけを愛しているよ」

「・・・すず?」

俺の頬を暖かい涙が伝い零れ落ちる。

「そうだよ。信じてくれる?」

背中を向けたまま小さく頷くと、美鈴がそっと背中に頬を寄せた。

「ねぇ カズ?」甘くささやく様な声。

「ん?」

「どうしてあたしは吸血鬼にならないの?
吸血鬼に血を吸われると、吸われた人も吸血鬼になるんでしょ?」

「あれは物語だよ。
吸われた人全員が吸血鬼になったら、この世界は吸血鬼だらけになるだろ?」

「残念だな・・・。あたしも吸血鬼になれたらいいのに」

「どうして?」

「そうしたらカズと1000年の時を一緒に過ごせるんだよ。
永い、永い時間、カズと愛し合えるもん」

「・・・そうだな」

溢れ出した涙を気付かれない為に、俺はその一言を呟くのが精一杯だった。




つづく・・・



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LOST MY WAY (3話)
甘く解けるような時間の中で切りがない程抱き合って、最後の時間を互いの胸に刻み付ける。

「ねぇ カズ、もっとぎゅっとして」

自分の死期が近いことを悟っているのか、ここ数日美鈴は俺から体を離したがらない。

「こうか?」

腕に力を入れて問いかけると「もっと」小さな声で彼女が答える。

「これ以上抱きしめたら苦しいだろ?」

「苦しくてもいいの。もっとぎゅ~ってして」

子供のように甘える美鈴を強く抱きしめながら俺は瞳を閉じた。

日に日に透明感が増していく彼女がまた明日も目覚めることを願いながら・・・。




次の日の朝目覚めると美鈴が黙って俺の顔を見つめていた。

「おはよう」

ホッとした気持ちで囁くと「ねぇ カズ、抱いて」彼女はそう口にした。

「そんなの無理だよ」

「お願い、もう時間がないの」

やっぱり分かっているんだな。

「それなら尚更無理は出来ないよ。俺は少しでも長くお前と一緒にいたい」

「あたし言ったでしょ。カズに愛されたまま死にたいって。だからお願い」

どこまでも俺の愛を求める美鈴。

お前の思いに応える事が、俺にとってどれだけ残酷な事か分かっているのだろうか。

愛し合った後どうなるのかなんて考えなくても分かってる。

だけど俺は彼女の最後の願いを聞きいれ、その白い首筋にそっと唇を寄せた。

力なく俺を抱きしめる腕と、微かに零れる美鈴の吐息。

きっと、これが最後。

そう思うと俺は涙を抑えることなど出来なかった。

瞳を閉じたままの美鈴にくちづけると「カズのキスしょっぱいよ」って彼女が微かに微笑んだ。

「そんなことないよ」

否定しながらも、美鈴の頬の上に俺の涙が零れ落ちる。

「カズ、お願いだから泣かないで。あたしは幸せだから。
あなたの腕の中で死ねる。それだけで幸せだから。
ごめんね。最後まで我がまま言って」

「我がままなんかじゃないよ」

「もうひとつ我がまま言っていい?」

「何?」

「もう一度だけ、あたしの血を吸って」

「・・・分かった、後でね。今はもう少しだけお前を抱かせてて」

「うん。約束だよ」

きっと俺がここ数日、美鈴の血を吸っていないことを気にかけていたのだろう。

最後まで俺のことを思う彼女の優しさが胸に痛い。

「カズ、ごめんね。あなたの事悲しませて。
ずっとそばにいてあげられなくて、ごめんね」

「何でお前が謝るんだよ。謝るのは俺の方なのに・・・。
俺がお前を愛さなければ、お前はもっと生きられた筈なのに。ごめんな。美鈴」

「カズ、愛してるよ。
そしてまた生まれ変わってもカズを愛するって誓うよ。
だからあたしを待っててね。
きっと、きっとカズの所に帰ってくるから」

「あぁ、俺もきっとお前を見つけ出すよ。
何処にいても、どんな名前になっていても、きっと「すず」を見つけるよ」

「・・・うん。やくそく・・・ね」

美鈴がそっと差し出した小指に俺の小指を絡めると、彼女の手が力尽きてベッドに沈んだ。

「美鈴?・・・美鈴? 
目を開けてくれよ。美鈴!!!」

力なく横たわる彼女の体を強く抱きしめ、俺は何度も彼女の名前を叫んだ。

けれどそのまま美鈴が目を覚ます事はなく、彼女は俺の腕の中で永い眠りに就いた。

本当にこれでよかったのだろうか。本当に彼女は幸せだったのだろうか。

俺は涙を拭う事も出来ず、出る訳もない答えを探した。

段々と冷たくなっていく美鈴の体を抱きしめ、俺は最後の約束を果たそうと彼女の首に唇を押し当てた。

これで俺も楽になれる。やっと、彼女と同じ世界に行ける。

俺たち吸血鬼は血を吸わなければ生きていけない。

自殺しようと血を吸う事を拒んだとしても、体がそれを拒絶し理性を失って貪るように血を求める。

俺たちが自ら命を絶てるたった一つの方法は、心から愛する人の亡骸の血を吸う事。

だから俺はあえて美鈴と約束を交わしたのだ。

彼女と一緒に永遠の眠りにつく為に。

本当はすずを失った時に、こうすれば良かったんだ。

唇が触れた彼女の肌も、喉を過ぎていく血ももう熱を持たない。

いつもより少ししょっぱい味のする美鈴の血を飲み干すと、俺は彼女と体を重ね合わせて目を閉じた。

これで命を失えば、俺が心から彼女を愛していた証になる。




ねぇ すず、お前は俺に永遠の愛なんて望めないと言ったね。

だけど、俺にとってお前への愛は永遠だったよ。

俺が生きてきた300年と云う時の中で、本当に愛したのは「すず(美鈴)」お前だけだった。

そしてきっとこれからもお前だけだよ。

次この世に生を受ける時は、絶対に人間に生まれ変わってお前を探し出して見せるから。

その時は俺の人生の全ての時間を捧げてお前を愛するよ。



体の奥が燃えるように熱く苦しいけれど、俺の心は穏やかで少しの後悔も感じていなかった。

今はただ愛する人をこの手に抱きしめて、深い深い眠りに就きたい。




ねぇ すず、今度こそきっとお前を幸せにするからね。



おわり




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感想をぜひ聞かせてください。

読んでくれてありがとう。

続編「果たされた約束」も良かったら読んでみてね!

果たされた約束 (1話)
今の俺の悩みの種。それはここ最近頻繁に見る夢。

顔も知らない誰かが夢の中に出てきては、何度も何度も俺の名前を呼ぶ。

その声は優しく、愛おしささえ感じるのに、何故か俺の胸を切なくさせる。

目覚めた時、涙を流している事さえもあるのは何故だろう。

声に出して呟くと会いたいと云う思いが込み上げてくる、その人の名は「すず」

夢の中の俺は、その名前を泣きながら叫んでいる。

彼女を抱きしめ、狂いそうな程声を張り上げながら・・・。

幼い頃から何度も見てきた夢。

だけどその間隔は次第に短くなり、今ではほぼ毎日だ。

この夢は俺に何かを伝えたいのかもしれない。

何の根拠もないけれど、俺にはそう思えて仕方がない。

だけどどうすればその答えが見つかるのか分からない。

俺は一体何をすればいいのだろう。




高校に入って2カ月。満員電車に揺られウンザリするような毎朝。

睡眠不足の今の俺には地獄に近いものがある。

その上今朝は、何故か頭の中がスッキリしない。

【寝不足のせいかなぁ・・・なんか変な声聞こえんだけど】

こめかみに手をやりモヤモヤとする頭を軽く左右に振ると、眩暈を起こしそうになって足元がふら付いた。

【やべぇ・・・マジ寝不足】

立ち止まって駅の壁に寄り掛かかっていると、暫くしてクラスメイトの聖が声を掛けてきた。

「亀 おはよう。お前朝から顔色悪いけど大丈夫か?」

「あぁ ちょっと眩暈がしただけ」

「昨日も例の夢みたのか?また眠れなかったんだろ?」

心配顔で問いかけてくる聖に「大丈夫」俺はそう返事をして、壁から体を起してゆっくりと歩き出した。

「お前さぁ・・・空耳ってある?」

隣を歩く聖に話しかけると「空耳?まぁ なくもないかな」そんな返事が返って来た。

「何、変な夢の次は空耳か? お前ホントに大丈夫かよ」

「空耳って程の事じゃないんだけど、何か声が聞こえる気がするんだよな」

「どんな?」

「それが良くわかんねぇんだよ」

「なんだそれっ」

呆れた顔で俺を見る聖に苦笑いを返すと「あっそう言えば、この前会った女の子達に、お前の連絡先聞かれたんだけどどうする?」顔色を伺うように聞かれた。

「教えなくていい。お前らがどうしても来いって言ったから行っただけだし興味ない」

「何で、超可愛い子たちだったじゃん」

「そうかもしんねぇけど・・・」

「お前さぁ彼女作る気ねえの?って言うか、誰か好きになった事あんの?」

「好きな人はいる・・・様な気がする」

「は? 何それ」

「自分でも良くわかんねぇけど、ずっと誰かがココ(心)にいるような気がすんだよ」

「お前が言ってる意味がわかんねぇよ」

「・・・・・・・うん。俺もわかんねぇ」

自分でも上手く説明出来ない。だけど物心付いた時から、ずっとそうだった。

可愛い子から告白されても、憧れる人は出来ても、絶対に揺るがない気持ちが俺の中にはある。

ただそれが誰に対してなのかが分からない。と云うか、思い出せないだけなんだ。

【やっぱ、あの夢に関係あんのかなぁ?】

そんな事が頭を過った時【もうすぐ会いに行くよ】今度ははっきりとした声が、頭の中で聞こえた。

「えっ何?」

驚き立ち止まると「お前急になんだよ」聖が怒りながら問いかけて来た。

「えっ?あ、ごめん」

彼に謝りながら一歩前に踏み出すと、ドンッと勢いよく女の子とぶつかった。

その拍子に彼女は足元がよろけ、俺は咄嗟に腕を掴んでそれを支え「ごめん。大丈夫?」掴んだ腕の主の顔を見ながら声を掛けた。

「私こそすみません。よそ見をしてて」

頭を下げた彼女が顔を上げ互いの視線が合った瞬間、俺の心臓が一瞬時を刻む事を忘れた。

【すず】

またハッキリとした声が聞こえた。




つづく・・・


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写真ブログ 「月のkurageが恋した空」 こんなのやってます。




果たされた約束 (2話)
視線がぶつかったままお互い言葉を失っていると「お前は何やってんだよ」そう言って彼女の頭をポンッと叩いて優しく微笑みかける男が現れた。

胸の奥がズキンと痛む。

その間も俺の頭の中では【すず?すず?】と彼女に呼びかけるような声が聞こえる。

掴んでいた彼女の腕を離し「こっちこそ、ごめん」ともう一度謝ると、その女の子が「あの・・・」何かを言いかけた。

だけどそれを拒み「ほらっ早く行かないと学校遅れるぞ」男は彼女の腕を掴んで強引に歩き始め、後ろを何度も振り向き何か言いたそうな表情の彼女を俺は呆然と見送った。

「おいっ!亀?亀?」

聖の声に驚いて振り向くと「早く行かないと俺たちも遅れるぞ」そう言われ、先に歩き出した彼の後を俺も歩き出す。

【彼氏・・・かな?やっぱ、そうだよな】

溜息をつくと胸の奥の痛みが増し、俺はどうしようもない苛立ちに包まれた。

気が付くと一日中名前も分からない彼女のことばかり考えている。

一緒にいた男が恋人なのか、彼女の名前は「すず」なのか。

俺の夢の中に出てきた相手は彼女なのか・・・。

そして何よりも、彼女は俺に何を言おうとしたのだろうか。

この胸の奥で感じている痛み、せつなさ、そして愛おしさは何なんだろう。

あの時、直ぐにでも抱きしめたいような衝動に駆られたのは何だったんだろう。

「亀梨!亀!か~め!?」

頭の上から聞こえる声に顔を上げると聖が「お前朝から変じゃね?」と俺を見下ろしながら問いかけてきて「あれ?HRは?」聞き返す俺に「もう終わった」そう言って苦笑いを見せた。

「お前今日ずっと上の空だろ!何を聞いても空返事ばっかりだしよ」

「そんな事・・・ねぇよ」

「ある!」強く言われると否定できない。

「ごめんっ」

ポツリと謝ると「お前が変なのは朝言ってた空耳が関係あるのか?」心配顔で問いかけて来る聖。

「そう言えば、あの後声聞こえなくなったな。どうしてだろ?」

首を傾げる俺を見て「あの後って?」彼も一緒に首を傾げた。

「あのさぁ・・・お前一目惚れってした事あるか?」

「一目惚れ?そんなの毎日」ニカッと笑いふざけて答える聖。

「・・・・・お前に聞いたのが間違ってた」

「ちょ、ちょっと・・・冗談だって!
何、お前一目惚れしたの?今朝のあの子に?」

「いや、そういう訳じゃなくて。ちょっと聞いてみただけだよ」

鞄を手にして椅子から立ち上がると「お前、ちゃんと話せよ」文句を言いながら付いてくる聖に「聞いただけだって言っただろ」そう言って俺は教室を出た。

一目惚れ・・・そう言われたらそうなのかもしれない。

だけど何かが違うんだ。

今日始めて会ったのは間違いないのに、どこか懐かしいような、探していた人にやっと出会えたような、失くした宝物を見つけたような・・・そんな気持ちなんだ。

だけど、この気持ちを友達に言っても分かってもらえる訳がない。

俺だってわからないのに。

結局は一目惚れした・・・って事なのかなぁ?





そしてその日の夜、俺はまたあの夢を見た。

夢の中の「すず」と言う女の子は俺のことを「カズ」と呼び、俺は彼女の膝枕でうたた寝をしている。

優しく髪を撫でられ、愛おしいその声で何度も俺の名前を呼ぶすず。

だけど夢の中の俺は幸せな時間の中で彼女への愛を確認しながらも、言いようのない不安と絶望を感じていた。

この矛盾した思いは何なんだろう。

それに、この感情にどこか覚えがあるような気がするのは何故だろう。




つづく・・・


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果たされた約束 (3話)
次の日の朝、俺は説明出来ないこの感情が何なのかどうしても知りたくなり、駅で彼女が現れるのを待つことにした。

しかし昨日と同じ時間になっても彼女が現れることはなく「来ないもんはしょうがねぇだろ」俺の肩を叩いて慰める聖に溜息で返事を返した。

「それに会って何て声掛けんだよ。一緒にいたの彼氏だろ?
またそいつが一緒だったらどうすんだよ」

そんな事言われなくても分かってる。

だけど、どうしても確かめたい。

いや、確かめなきゃいけない気がするんだ。

彼女に会えばその答えが見つかる。そんな気がして仕方がないんだ。

その後学校が始まる時間になると、俺は後ろ髪を引かれる思いでその場所を離れた。

しかしどうしても諦めることが出来ない俺は一人次の日も、その次の日も彼女が現れるのを同じ時間、同じ場所で待った。

だが結局その週の内に彼女に会うことは出来ず、教室で落ち込んでいる俺を見て聖は呆れ顔で「お前が女の事で必死になってんの初めてだな」と零すように呟いた。

「そんなに好きなのかよ」

「そう云うんじゃないんだ」

「じゃあ、なんだよ」

「上手く言えねぇけど、どうしても彼女に会わなきゃいけないんだ」

「なんで?」

「・・・分からない。だけど、そうなんだ」

「最近のお前の言動、ホントおかしいぞ!」

そんなの自分が一番分かってる。

意味不明な事を言ってる事も、何でこんなに彼女に会いたいのかも、俺だって不思議でしょうがない。

だけど俺の中の誰かが「彼女を探せ!」と言って俺を突き動かすんだ。

理屈じゃない。俺はもう一度彼女に会いたい。





月曜日の朝、早めの電車で学校に向かっていると、車内に事故の為電車が1時間程遅れるとのアナウンスが流れた。

「1時間? マジかよ」

どうしても諦める事の出来ない俺は、今日も彼女を駅で待つつもりでいたのに。

最寄り駅に着くと既に学校は始まっている時間。

俺は改札口を抜けると梅雨空を見上げ、今日何度目かの溜息を漏らせた。

【せめて何処の学校か分かれば探せるのに】

彼女に会った時の事を何度思い出しても、彼女が何処の学校の制服を着ていたのか思い出せない。

思い出せるのは掴んだ彼女の腕の柔らかさと、俺の頭の中に聞こえた彼女を呼ぶような声。

そして一緒にいた男が愛おしそうに彼女に微笑みかけた事だけ。

彼女を探すヒントになるような大事なことは何一つ覚えていないのだ。

【彼女を見つける事が出来なかったら、俺は本当に諦められるのかな?】

雨の中ゆっくりと学校に向かっていると「やっぱりお前も遅れたのか」そう言って聖が駆け寄ってきた。

「あぁ」

「って事は、今日も彼女には会えなかった訳だ」

溜息で返事を返すと「そんなに会いたいなら、意地でも探せよ。どうせ諦めきれねぇんだろ?」しょうがねぇなぁ・・・って表情で微笑む聖。

「なぁ 聖。あの子が着てた制服とか憶えてないか?」

「学校かぁ・・・あんま憶えてねぇな。これと言って特徴なかったし」

「だよな」

「あっ 制服じゃねぇけど、あの鞄どっかで見たことあるかも!サブバック」

「サブバック?」

「そうだ!この前合コンした女の子たちが通ってる高校だよ。
お前の連絡先教えてくれって言った、あの子が行ってる高校の鞄だ」

「マジで?」

「多分、間違いないと思う」

今は聖の記憶を信じるしかない。

彼女を探す手掛かりは、それしかないのだから。



その日の放課後、俺はすぐに彼女が通う高校がある駅に向かった。

改札口を抜けるとすでに聖が言っていた特徴と同じ鞄を持った生徒が下校を始めていて、俺はその中にあの女の子の姿を探しキョロキョロと辺りを見回した。




つづく・・・





果たされた約束 (4話)
壁際に立ち改札口を通り抜ける女の子達を必死に確認していると、「あ~!!!亀ちゃんだ」と言う甘ったるいような声で俺の名前を呼ぶ女の子達が現れた。

「え~っと・・・誰?」

「それマジで言ってんの?超ヒドくな~い?」

いかにもバカっぽい言葉使いと派手なメイク。

鼻にツンと来る強い香水の匂いで、俺は記憶の片隅にあった出来事を思い出した。

「あっ 聖が言ってた子か」

「えっ 聖くんが奈美の事何て言ってたの?」

「いや、別に・・・ってか、今人探してて忙しいんだよね」

「え~!!!亀ちゃん冷たい。連絡先教えてって言っても教えてくれないし。
奈美、アドレス教えてもらえなかったの初めてだったから、超ショックだったんだけど」

【くっそ、うるせぇな。お前らがいたら彼女見つけにくいんだよ】

舌打ちをして思い切り不機嫌な顔を見せた時、頭の中で【すず、すず】と彼女を呼ぶ声が聞こえ、キョロキョロと辺りを見回すと改札口を通り抜けるあの女の子を見つけた。

しかしその傍にはあの彼氏らしき男の姿も。

彼女が一人じゃなくても話しかけるつもりでいたのに、一瞬の躊躇いが俺の足を強張らせる。

その間も興味のない事を話しかけて、やたらと俺の体に触れてくる女の子達。

視線の先にはずっと会いたかった彼女がいるのに、どうして俺は何も出来ないのだろう。

段々と遠ざかっていく彼女の後姿。

「ちょっと!どこ見てるの?亀ちゃん」

バカ女が俺の視線を遮った瞬間、俺はあの女の子の元へと行こうとした。

しかし、俺の腕を掴んで「まだ話終わってな~ぃ」拗ねたような表情を見せるバカ女。

「ちょっ 離してくんね? 急ぐんだよ。馴れ馴れしくすんな!」

女の子たちを怒鳴りつけ、俺は彼女が向かったホームに続く階段を駆け上がった。

しかし階段を上りきったと同時に閉まる電車のドア。

ドア付近に立っていた彼女を見つけ駆け寄ると、キョロキョロと辺りを見回し俺に気付いた彼女が驚いたような表情をしながらドアに手をついた。

「すず!」

思わず彼女の名前を叫ぶ俺を置いて、動き出す電車。

スローモーションの映像を見ているように、ゆっくりと離れていく二人の距離。

見詰め合った視線は距離に邪魔されて、彼女はまた俺の視界からいなくなった。

「ちくしょぅ!」

直ぐに彼女を追うことが出来なかった自分への苛立ちをホームの柱にぶつけ、それと同時に何故「すず」と言う夢の中の女の子の名前を叫んだのか自分でも分からず戸惑った。

【あの子の名前が「すず」かどうかも分からないのに、俺は何をやってんだ】

でも、きっと彼女も何かを感じてる。

説明出来ない感情を抱えているのは、きっと俺だけじゃない。

俺を見つめた彼女の瞳がそう言ってる気がしたんだ。




次の日の朝、俺はいつもより1時間早く起きて彼女を待つ為に駅に向かった。

でも、今日俺が彼女を待つのはいつもの駅じゃない。

彼女の学校がある最寄り駅だ。

【この駅で待てば、きっと彼女に会える】

しかしそう思った俺の考えは覆され、また今日も彼女に会うことは出来なかった。

【どうすれば彼女に会えるんだ。何で彼女は現れないんだ】

1時間目の授業ギリギリで教室に滑り込み「お前、この時間まで彼女待ってたのかよ」呆れ顔で問いかけてくる聖に「彼女の高校がある駅で待ってた」俺は、溜息混じりにそう答えた。

「でも、会えなかったんだ?」

「でも俺は探すよ。昨日はもう少しの所で会えそうだったんだ。だから俺は諦めない」

「お前のその強い気持ちは何処から来んの?」

「何処からだろうな」

【そんなの俺が知りてぇよ】

心の中でそう呟いた時、「カズ」俺の名前を呼ぶ優しい声が聞こえた。




そして彼女を見つけられないまま訪れた金曜日の朝。

この3日間、俺は朝も放課後もあの駅で彼女が現れるのを待っていた。

しかし彼女の姿を見つけることは出来ず、今日も駄目なのかも知れないと思いながら改札口付近の壁にもたれ掛かっている。

【今から急いでも学校間に合わねぇな】

腕時計で時間を確認しもたれ掛かった体を起こした時、俺はホームの階段を一人下りてくる彼女の姿を見つけた。

【すず】

頭の中の声に背中を押されるように、彼女の元へ近づく。

彼女はキョロキョロと辺りを見回し、俺に気が付くと驚いた表情を見せながらゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。

やっと彼女に会えたのに、それなのに何て声を掛けていいのか分からない。

見詰め合ったまま近づいていく互いの距離。

彼女の前で歩みを止めると「どうしてココにあなたがいるの?」そう問いかけられた。

だから俺は答えたんだ。

「もう一度、君に会いたかったから」



つづく・・・



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果たされた約束 (5話)
俺の言葉を聞いて戸惑いを見せる彼女。

そりゃそうだろう。俺自身が戸惑っているのだから。

言葉を交わした事もない相手からそんな事言われて、驚かない方がおかしい。

だけど彼女は少し頬を赤らめながら「あたしもあなたに会いたかったの。だから会いに行ったんだけど」そう呟いた。

「えっ 会いに行ったって?」

予想もしていなかった言葉に俺は驚いた。

彼女の話では普段は自転車で学校に通っていて、雨の日だけ電車で通学しているらしい。

【そう言われたら初めて会った日も雨が降っていた気がする】

それじゃあ俺が駅で彼女を待っていても会えない訳だ。

だけどどうしても俺の事が気になり、今週の月曜日駅で俺を待っていたと。

しかし事故の為に電車に遅れが出た月曜日に俺達が出会う事はなく、次の日からもずっと駅で俺を待っていたと彼女は俯きながら告げて来た。

俺が彼女をこの駅で待っていた時、彼女も俺を待っていたなんて。

これはもう、神様の悪戯としか思えない。

「ねぇ どうしてあなたはあたしの名前を知っているの?
あの時、すずってあたしの名前呼んだよね?」

顔を上げ俺を真っ直ぐ見詰める彼女の瞳が、切ない程に眩しい。

「分からない。咄嗟にそう叫んでたんだ」

「じゃあ、あなたの名前はカズ?」

「どう・・して・・・」

驚きを通り越して言葉にならない。

「あたしの名前は鈴音。あなたの名前はなに?」

「俺は和也。亀梨和也」

「本当にあなたはカズだったんだ」

彼女の言葉が俺の思いとシンクロする。

それに夢の中で聞いていた俺の名前を呼ぶ声は、間違いなく彼女の声だ。

一体どうなっているんだろう。

お互い言葉を失ったまま見詰め合っていると、仕事を急ぐサラリーマンが俺の肩にぶつかって通り過ぎて行き、我に返った俺は慌てて腕時計で時間を確認した。

「あっ 学校!」

【もう始まってる。だけどもっと彼女と話したい。一緒にいたい】

そう思いながらも「時間大丈夫?・・・じゃないよね」と彼女に告げる。

でも彼女は「うん」と小さく頷いたまま、焦った様子もなくその場を離れようとしない。

だから俺は素直に思いを口にしたんだ。

「もう少し話せないかな?もっと君の事が知りたい」

すると彼女は顔を上げ「ぅん!」可愛く微笑んで頷いた。

もしかしたら彼女も同じ思いだったのかもしれない。



俺たちは学校へは向かわず、駅前のファミレスで話をすることにした。

店に入ると男性店員に窓際の席に案内され「すみません。窓際はちょっと・・・」俺が苦笑いをしながら奥の席を指差すと、制服の俺達をジロジロと見て「お好きな席にどうぞ!」ちょっと感じ悪く答えられた。

店の一番奥の目立たない席に鞄を置きドリンクバーだけを注文して、俺はカップにホットコーヒーを注いだ。

それを見て「お砂糖とミルクは?」そう問いかけてくる彼女。

「要らない。ブラックだから」

本当は砂糖もミルクも入れたいけど、ちょっとカッコつけてしまう俺。

彼女はアイスティーを持って席に戻るとグラスにミルクとガムシロをたっぷりと注ぎながら「ブラック飲めるんだ。凄いね」って呟いた。

「そう?」

カッコつけている事を悟られないようにしながらコーヒーを口に運ぶと、思った以上に苦くて顔をしかめそうになった。

【うわぁ 苦げぇ】

その瞬間、俺は砂糖とミルクを入れなかった事を思いっきり後悔した。

「あのね」

彼女がストローでミルクティーを掻き回しながら問いかけてくる。

「あなたに会うの初めてだよね?前に会ったことある?」

「いや、たぶん初めてだと思う」

「そうだよね。でもね、不思議な感覚なの。
ずっと前からあなたを知ってるような、あなたを探してたような・・・そんな感覚なの」

「俺もそんな風に感じてた。すずに初めて会った時に、この子だって思った。
あっ ごめん。すずって呼んで」

「ううん。すずでいいよ。ずっとあなたにはすずって呼ばれてたし」

「え?」

「変な子だって思わないでね。小さな頃から、ずっと同じ夢を見てたの。
あたしの事をすずって呼ぶカズって名前の男の子の夢を。
ねぇ カズはあなただよね?」

まさか彼女も俺と同じ夢を見ていたなんて。

彼女と出会ったのは偶然なんかじゃない。

運命の出会い・・・そんな大げさな事じゃないかもしれない。

だけど必然の出会いだっと今なら確信出来る。



つづく・・・



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果たされた約束 (6話)
「あのさぁ ひとつ聞いていい?」

「なあに?」

小さく首を傾げて俺を見つめるすず。

その表情が余りにも可愛くて、俺は一瞬何を聞こうとしたのか忘れそうになった。

「えっと、・・・・あっ いつも一緒にいる男の人って誰?」

「雄ちゃんの事かな? 雄ちゃんは幼馴染のお兄ちゃんだよ。
それがどうかしたの?」

「すずは、その・・・ゆうちゃん?ってヤツの事どう思ってんの?」

俺の質問に頭の上に疑問符を浮かべるすず。

「どうって?」

「だから、好きとか・・・」

「うん。好きだよ。優しいし、本当のお兄ちゃんみたい」

【好きってどう言う意味だ?】

心臓がバクバクする。

「それは特別な意味?」

「特別? 男の人としてって事?」

俺は小さく頷いた。

「それはない。雄ちゃんと10年以上一緒にいるけど、そんな風に思ったことないし。
友達にも良く聞かれるけど、そんな風に見えるのかな?」

「いや、すずを見掛けた時はいつも一緒だったから、彼氏なのかなぁ・・・って思ってた」

「彼氏いたら、あなたの事こんな風に探さないよ」

顔を赤らめ小さな声で恥ずかしそうに呟くすず。

彼女の言葉を聴いてホッとはしたけれど、彼のすずを見つめる優しい眼差しには意味があるような気がする。

この時ばかりは自分の感が外れることを俺は願った。

「亀梨くんは、彼女いないの?」

「俺?いたらすずの事探さないでしょ!」

見詰め合ったまま二人クスッと笑い合い、彼女はずっと掻き回していたアイスティーに口をつけた。

ストローに触れた唇がぷっくりとしていて艶やかで、触れてしまいたい衝動に駆られてしまう俺。

咄嗟に彼女から視線を逸らし、少し冷めたコーヒーを口にして忘れていた苦味に驚き一人苦笑いをした。

二人で話していると、今日初めて言葉を交わしたとは思えない程直ぐにお互い打ち解け合い、気が付けばすずも俺のことを「カズ」と呼ぶようになっていた。

その言葉の響きが心地よく、もっと呼んで欲しいとさえ思ってしまう。

優しく囁く様なすずの声。

少しくすぐったさを覚えるようなその声が、俺の心を甘くさせる。

結局俺たちは出会うまでの時間を埋めるように、何時間も二人で話し込んだ。

気が付けば学校も終わり、外は薄暗くなり始めている。

すずの家の最寄り駅、つまり俺の学校がある駅まで電車で一駅。

彼女を送って行く途中の満員電車の車内でも、俺達の会話が止まることはなかった。

「ごめん。結局学校サボらせちゃったな」

「ううん。カズのせいじゃないよ」

「俺が引き止めたからだし」

「そんな事ない。あたしがカズと話したかったからだもん」

ハッキリと思いを言葉にして伝えたわけではないけれど、互いに感じる相手の思い。

俺を見上げて恥ずかしそうに微笑む彼女を、今すぐ抱きしめてしまいたい。

その時急カーブに差し掛かり、ガタンと電車が揺れてすずが俺に寄り掛かってきた。

「ごめんねっ!」

謝る彼女を俺はそっと抱き寄せる。

ちょっと驚いた様子のすず。

だけど黙って俺に寄りかかったまま、彼女は嫌がる素振りを見せない。

満員電車で良かったと思ったのは初めてだ。

自分の腕の中で感じる温もりが懐かしいと感じるのは何故だろう。

どうしてこんなにも彼女の事が愛しいのだろう。




最寄り駅から彼女の家までの道。

少しでも長く一緒にいられるように、俺たちはゆっくりと歩きながら帰った。

もちろん彼女と手を繋いで。

「月曜日も会えるかな?」

俺がそう問いかけると「うん!」すずは嬉しそうに大きく頷いた。

「いつどこで待ち合わせる?」

「授業何時間?」

そんな会話をしていると彼女の家の前に到着。

「もう着いちゃった」

彼女が残念そうに呟いた時、すずの家の玄関ドアが開きあの雄ちゃんと云う幼馴染が飛び出して来た。

「鈴音!」

彼女に駆け寄り心配顔で「お前今日学校来なかっただろ!何やってたんだよ」怒り気味に問いかける彼。

そして咄嗟に繋がれた手を離し「心配掛けてごめんなさい」と彼女は直ぐに謝った。

「お前が鈴音を連れ回したのか?」

俺を睨み付ける彼に「違う。彼は送ってくれただけ」彼女はそう云うと慌てて家の中に入ろうとした。

その様子に不安を感じる俺。

【俺との事知られたくないのかな? マズイ事あんのかな?】

だけど彼女は帰ろうとする俺を呼び止めて「カズ、月曜日ね。帰ったら絶対にメールしてね」と微笑みながら手を振った。

その様子を見て、益々俺を睨み付ける幼馴染。

どうやら俺の感は間違ってなかったらしい。



つづく・・・



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果たされた約束 (7話)
その日の夜、俺は月曜日の待ち合わせ場所を決める為に彼女にメールを送った。

しかし待ち合わせ場所が決まっても俺達のメールが途切れる事はなく、結局部屋の電気を消したのは0時を2時間ほど過ぎた頃だった。

幸せな気持ちで眠りに就くと、直ぐに俺はいつもの夢を見始めた。

だけどその夢は今までと少し違っていて、俺にギュッと抱きついてくる彼女の名前を呼ぶと、すずは顔を上げ嬉しそうに微笑んだ。

「カ~ズ!」

零れそうな笑顔を見せたのは、間違いなく鈴音だ。

そっと瞳を閉じてキスをせがむすずの唇に、俺は小さなキスを落とした。

物足りないって顔を見せる彼女の唇が艶を持ち、俺は引き寄せられるようにまた唇を重ねる。

何度も繰り返す優しいキスが少しずつ熱を持ち始めると、俺はすずの首に顔を埋めてゆっくりと味わうように舌を這わせた。

甘い吐息を漏らせ、可愛い声で俺の名前を呼ぶすず。

彼女の指が俺の頬に触れた瞬間、俺はハッと目を覚まして飛び起きた。

「夢?」

自分に呆れ頭を抱えながらベッドに寝転がり、彼女の肌の感触が残っているような気がしてそっと唇に触れてみる。

【そりゃ、キスしたいなぁ・・・と一瞬思ったけど、こんな夢みるか?
キスなんてしたことないのに、何で感触なんてわかんだよ。
なんか俺、欲求不満みてぇじゃんか!】

俺は恥ずかしい様な、情けない様な気持になりながらも、夢の途中で目が覚めた事をちょっと残念に思ったりもした。

【すずは今、どんな夢を見てるのかなぁ】




月曜日の朝、俺はいつもより30分早く家を出てすずと待ち合わせている駅に向かった。

俺の学校とすずの家があるこの駅が俺達の待ち合わせ場所。

改札口を抜けた先、タクシー乗り場が傍にある小さな広場で待っていると、暫くして彼女がやって来た。

俺を見つけて慌てて駆け寄って来るすず。

「カズ、おはよぅ」

「おはよう。別にそんな走らなくていいのに」

「だって、嬉しかったんだもん」

ストレートな彼女の言葉に笑みが零れる。

「何分ぐらい一緒にいれる?」

「10分の電車に乗れば間に合うから、25分くらいかな」

「今度はちゃんと時計見とかないとな」

俺がそう言うと彼女はクスリと笑って「そうだね」って呟いた。

多くの人が行き交う駅の片隅で、俺達は互いの思いを確認するように言葉を交わしていた。

「あのね、またカズの夢見たよ」

「どんな夢だった?」

「・・・言わない」

顔を赤らめながらも嬉しそうに微笑むすず。

【もしかしたら、彼女も同じ夢見てたのかな?】

「俺も見たよ。すずの夢」

「どんなの?」

「ん?言わない」

「もう、何それ」

ちょっとふくれっ面の彼女が、一段と可愛い。

そしてすずと話し始めて10分くらい過ぎた頃、俺達の近くに自転車が止まり「鈴音、お前は何やってんだよ」と少し苛立ったような声で話しかけてくる奴がいた。

金曜日に会った、すずの幼馴染だ。

すると彼を確認したかと思うと、すずはプイっと余所を向いた。

「何で先に一人が出掛けたんだよ。先に行くのは先週だけだって約束だったろ?」

「もう雄ちゃんとは一緒に学校行かない。毎日電車で通うからほっといて」

すずは彼の顔も見ようとはしない。

「すず、無理してるんだったら俺はいいよ。放課後も会えるんだし・・・」

俺がそう言うと「無理なんてしてない。カズは会いたくない?」彼女は不安そうに俺を見詰めて来た。

「そうじゃないよ。ただ・・・」

「それに雄ちゃん何て嫌い。パパに言い付けたりして。
雄ちゃんのせいで、パパに怒られたんだからね」

「それはお前が無断で学校休んだりするからだろ」

「わざわざ言わなくてもいいじゃない」

「言った訳じゃなくて、一緒に帰らなかったからバレたんだろ」

困った様子の彼の言葉で、今まで二人がどれだけ同じ時間を過ごして来たのかが分かり、俺は居た堪れない気持ちになった。

「兎に角これからは電車で行くから、雄ちゃんとは一緒に行かないから。
ほらっ早く行かないと雄ちゃんは自転車なんだから遅れるよ」

早く学校に行くように促す彼女に「今日はちゃんと学校来いよ」彼はそう言うと俺の顔をチラリと横目で見て自転車のペダルを踏み込んだ。

「やっぱり怒られたんだ?俺のせいでごめんな」

「カズのせいじゃないよ。嫌な思いさせてごめんね」

「別に嫌な思いなんて・・・。それより、いつも彼と登下校してるの?」

「学校同じだから、パパが一緒に行けって!
雄ちゃん、あたしよりパパに信用されてるからね。ホント嫌になっちゃう」

【って事は、俺はすずの父親からしたら最悪な奴って事か】

思わず溜息を漏らせると「あっ カズの事はパパにバレてないよ」すずはそう言って微笑んだ。

それはそれで彼女に申し訳ない気がした。



つづく・・・


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コメントは承認制になっておりますので、承認後に掲載になります。
内容によっては承認しない。削除する事もありますのでご了承ください。

初めてコメントされる方は、必ず簡単な自己紹介と「はじめて」だと言うことをお知らせください。
申し訳ないのですが、分からないこともあるので。

あとギャル文字は解読不可能なのでご遠慮いただきたいです。
ホントに読めないんです。ごめんなさい。

諸事情で隠しコメントは受け付けていませんし、コメレスもしていません。

ごめんなさい


ひらり
プロフィール

   hirari

Author:   hirari
中1の男の子、小3の女の子の母です。

亀ちゃんが好きすぎて息子に呆れられ、旦那に「うざい」と言われたちょっとアホな30代です。

仁亀萌えしておりまして、腐った発言多々あります(笑)。

今後もKAT-TUNと仁、両方を応援していきますのでよろしく!



ひと恋の弘人で亀堕しました。

めっちゃ長い「ひと恋」感想、小説「さがしもの ~弘人と菜緒~」など書いてますので、良かったら読んでやってくだパイ。


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