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2006/12
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さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 1話 ≫
2月の末平日の金曜日 札幌に向かう飛行機の中には、窓の外かなり下の方を流れる雲を眺める弘人の姿があった。

菜緒に会うのは、冬休みに彼女が横浜に帰って来て以来になる。

菜緒の勤める養護学校は札幌空港から電車とバスを乗り継いで4時間程掛かるところにあり、弘人が訪れるのは去年のGW以来3回目。

そして平日の金曜日に態々有給を取ってまで会いに来たのは、彼女が働いている養護学校を見たいという思いからだった。

午前中早い時間に横浜を出発した弘人が養護学校に到着する頃には午後3時を過ぎていて、門の外から中の様子を伺っていると養護学校の先生らしき男性が現れ「何か用ですか?」と声を掛けられ、恋人に会いに来たとは言えない彼は、仕方なくその場を後にすることに。

しかしバス停に戻りどう時間を過ごそうか悩んでいると、自然と足はまた養護学校の方へ向かう。

雪のたくさん積もった正門の前を行ったり来たりしていると、先ほどの男性教諭がまた通りかかり「あなたさっきもいましたね!何かうちの学校に用ですか?」

さっきより強い口調で問い掛けられ、弘人はどう答えて良いのか分からず気まずそうに頭をかいた。

すると「弘人?」聞き覚えのある声が聞こえ、振り向くとそこにはびっくりした表情の菜緒が立っていて「菜緒!」弘人がそう呟くと「月丘先生のお知り合いですか?」男性教諭が菜緒に問い掛けた。

男性教諭の言葉が聞こえてはいるものの、ビックリするやら嬉しいやらで戸惑いを見せる菜緒。

そんな彼女に事情を説明してもらい、弘人は養護学校の中に入ることを許された。

子供たちとクラブ活動をしている菜緒の様子を体育館の片隅で黙って弘人が見ていると「月丘先生 あの人誰?」中学生の女の子が菜緒に質問をし「先生の知り合い」と菜緒はちょっと照れたように頬を染めて答えた。

「先生の彼氏なんじゃないですか?」

「きゃぁぁぁ 彼氏だって・・・いいな、いいな」

生徒達に冷やかされて恥ずかしくなった菜緒が「もう うるさいなぁ」照れ隠しで怒ったように呟くと「でも先生の彼氏かっこいいね」と言われ、彼女は嬉しくなって綻んだ顔を隠しように俯いた。

菜緒の仕事が終わるまでの時間を弘人は学校を見学しながら過ごし、二人で一緒に彼女のアパートに向かう。

「弘人と一緒に帰るなんて、なんかちょっと不思議」

「そっと見てるつもりだったんだ。菜緒が教師してる姿一度見たかったんだ」

顔を菜緒とは反対方向へ向けて弘人は零すように呟き、彼がどんな顔でそんなセリフを言ったのか見たかったなぁ・・・菜緒はそんな事を思いながら、自分の編んだ手袋が嵌められている彼の手をそっと握った。


一人暮らしをしている菜緒の部屋は1DKのアパートで、実家に住んでいた時とは比べ物にならないくらい狭かったが、それでも彼女にとっては誰にも縛られることも監視されることもない自由でいられる自分だけの大切な場所。

弘人は部屋に入ると慣れたようにベッドの脇に荷物を置き、冷蔵庫の中を覗きながら「夕飯簡単でいい?」と問い掛けてくる菜緒に「俺も手伝うよ」と言って流しの前に立った。

二人で冷蔵庫の残り物で炒め物とサラダを作り、いつ彼が来てもいいようにと用意された箸と茶碗を彼女は嬉しそうにテーブルに並べると、向かい合って座り二人笑顔で「いただきます」と手を合わせる。

「ホントはね明日電話して話そうと思ってたんだけど・・・」

「ん?どうかしたの?」

「月曜日 校長先生に『急に4月から横須賀の養護学校に空きが出来ると連絡が入ったのですが、月丘先生は横浜の方ですよね?ご実家から遠くないと思いますが行かれてみませんか?』って言われたの」

「横須賀?」

「そう。あたし行こうと思うの。そうしたら今より弘人に会えるから。
でもね、実家には帰らないつもり・・・自立していたいの」

「それでお父さん達は納得するかな?」

「お母さんには話したの。お父さんの事は任せなさいって言ってくれて」

「分かった。俺に出来ることは協力するよ」

「ありがとう。電話じゃなくて直接弘人に話せてよかった。
弘人・・・会いに来てくれてありがとう」菜緒はそう言って、弘人を見つめて微笑んだ。

食事の後二人は会えなかった時間を埋めるように、弘人が菜緒を後から抱きしめるようにして座り他愛もない話を続けた。

「いつもメールだけだから寂しいね」

「うん」

「うん、だけなの?」

菜緒が不満を漏らすと「俺も寂しいよ」彼は彼女の耳元で小さく呟き「時間を気にしないで一緒にいられるっていいね」菜緒はちょっと恥ずかしそうにしながら、弘人の手を握って呟いた。

「ねぇ 廉くんの高校の合格発表どうだったの?」

「あぁ 合格したって連絡あったよ。今日が発表だったんだ。
菜緒に絶対に合格祝いしてもらうんだって、あいつ言ってた」

「良かった。これで高校でも野球続けられるんだね」

「俺の代わりに甲子園に行くって言ってる」

自分の事のように嬉しそうに呟く彼の方を向き「弘人がこんなに近くにいるって嬉しいね」菜緒は彼にそっと抱きつき、弘人はそんな風に甘えてくる彼女が愛しくて抱きしめる手にギュッと力を入れながら彼女の耳元小さな声で名前を呼んだ。

「菜緒」

弘人に名前を呼ばれるだけで、どうしてこんなにも胸が苦しくなるんだろう。

彼から体を離すと顔を上げ、キスをせがむ菜緒の唇に弘人の唇がそっと重なった。


つづく・・・


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さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 2話 ≫
俺たちが結婚を決めたあの日から、もうすぐ2年

その間北海道と横浜で遠距離恋愛だったけど、菜緒に逢えない、生きてるかさえも分からなかった昔に比べれば全然辛くはなかった。

メールで毎日の出来事を報告しあったり週末には電話したり。

年に数回だけど、菜緒が帰ってきたり俺が会いに行ったり・・・・

きっと結婚するまでには、まだまだ時間がかかって乗り越えなきゃいけない壁もたくさんあるけど、きっと菜緒を幸せにするよ。

それが出来るのは俺だけだって思ってる。

菜緒と一緒に探すと決めた 『さがしもの』

それは俺たち二人が幸せになる為の方法なんだ。

だからきっと俺たちは、さがしものを見つけ出してみせるよ。




朝 自分の隣で静かな寝息を立てて眠る菜緒の可愛い寝顔を見ながら「ずっと一緒にいられたら当たり前のように見られるんだろうなぁ」弘人はそんな事を思いながら、彼女の柔らかな髪をそっと撫でてみた。

すると菜緒が眩しそうな顔をしながら目を覚まし、弘人が自分の寝顔を見ていたことに気が付くとちょっと恥ずかしそうに布団で顔を半分隠しながら「おはよう」と囁いた。

何だかまだ、照れくさい。

朝食をすませると二人は直ぐに出かける準備を始めた。

どこかに行く訳でもなくただ町を散歩するだけなのに、二人で一緒にいるだけでそれは楽しいデートになった。

雪のたくさん積もった道を手を繋ぎながら歩き、小さな雑貨店で買い物をしたりスーパーで食材を選んだり、そんな他愛もない事が凄く楽しい。

しかし二人で過ごす幸せな2日間はあっという間で、明日の朝には彼は横浜に帰らなければならない。

お互い寂しい気持ちがあるのを分かっているのにあえて何も言わないのは、次に会う時菜緒は横須賀に帰ってくると分かっているから。

そう思うと寂しい気持ちが少し和らいだ気がして、弘人はただただ愛しい彼女を抱きしめて眠りについた。

次の日の朝空港まで見送りに来た菜緒は、そのままついて帰りたい衝動を押さえ込み笑顔で彼を見送った。

「すぐに弘人の所に帰るから、待っててね」



北海道から帰って来てからというもの、弘人は彼女が横須賀に帰ってくる日が待ち遠しくて仕方がなかった。

カレンダーの日付を後何日と指折り数える毎日。

合格した高校の野球練習に既に参加させてもらっている廉が一人夕飯を食べていると「菜緒が帰って来る日、お前も一緒に空港行くか?」と弘人が優しく問いかけた。

「その日も練習があるよ。菜緒姉ちゃんにごめんって謝っといて」

「分かった。菜緒、廉にすごく会いたがってるんだけどな・・・」

「俺だって会いたいよ。でも、レギュラー取るまで頑張るって決めたんだ。
俺がレギュラー取ったら菜緒姉ちゃんと一緒に見に来てよね」

「あぁ 絶対に行く! その代わり絶対にレギュラーになれよ」

「もちろん」

菜緒が帰って来るのを待ち遠しく思っているのは、弘人だけではないようだ。



そして菜緒の父親はというと、娘が家には帰らず一人暮らしを始めると言った時には反対したが、結局母親に説得をされたようだ。

「菜緒はもう立派な大人なのよ」と・・・

そう言われると返す言葉が見つからない。

「それに実家にいたら彼氏にも会えないじゃない」

母親はちょっと意地悪く言いながら、父親の顔色を伺ってみた。

菜緒が北海道に行って暫くして、また二人が付き合い出したことを聞いた時は正直驚いたが反対しようとは思わなかった。

ただ以前反対して別れさせた手前どう言って良いのか分からなかっただけで、彼が今時珍しくきちんとした青年だという事は、一人で了解を得る為に会いに来た時に感じていた。

だが母親の事、彼の友達に襲われそうになった事を考えると、やはりあの時はあぁするしかなかったのだ。

でも今は違う。

離れていてもお互いを信じ繋がっていた二人を引き離そうとも、引き離せるとも思っていない。

ただ口には出さないだけで、二人の絆の深さには気付いているのだ。

そう遠くない日、彼が会いに来るだろうとも思っている。


つづく・・・


さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 3話 ≫
少しずつ桜が咲き始めた3月末の土曜日、菜緒が横須賀に帰ってくる日がやって来た。

弘人は嬉しい気持ちを抑えることが出来ず、飛行機の到着時間よりも一時間も早く羽田空港に来て到着ゲート前のイスに座りタバコに火を着けた。

ソワソワと気持ちの落ち着かない彼は、一時間の間に一体何本のタバコを無駄にしただろう。

そして一時間後、菜緒の乗った飛行機の到着を知らせるアナウンスが掛かる。

もう座って待ってなんていられない。

暫くして到着ゲートを通って彼女が出てきたのが見えると「菜緒」気持ちを抑えられず、彼は思わず叫んでしまった。

そして彼に気が付いた菜緒は、嬉しそうに駆け寄ると思い切り彼に抱きついた。

「菜緒 お帰り!」

「ただいま。弘人」

しかしそんなラブラブカップルの後ろで、怪訝そうな表情で咳払いする男がいる。

菜緒の兄 達也だ!

「お前らねぇ そういうこと人前ですんなよ」

ちょっとヤキモチを妬いているようにも聞こえる。

「お母さん それにお兄ちゃんも・・・来なくていいって言ったのに」

見られたことが恥ずかしくて怒ったように呟く菜緒に「そんな事言うなよ」と彼女の頭をポンポンと優しく叩いく弘人。

「ご無沙汰しています」

深々と頭を下げる弘人に対して「本当にヨリ戻したんだな」不満そうな顔を見せる達也。

そんな息子の名前を諭すように呼ぶと母親は「きっと弘人くんが迎えに来てるから良いって言ったんだけど、お父さんがどうしても行けって言うもんだから・・・ごめんね」と優しい笑みを漏らしながら謝った。

「いえ、いいんです。僕が来る方が間違ってるのかもしれません」

気を使う弘人に「そんなことないよ。弘人が来てくれて、あたしは嬉しいよ」菜緒は屈託のない笑顔を見せる。

すると「はいはい、分かりました。俺たちが邪魔なんですね。お母さん帰ろうよ」達也がやってらんねぇ・・・そんな言い方をして体を翻(ひるがえ)し歩き出した。

「でも菜緒の部屋に行かなくていいんですか?」

弘人の問いかけに「いいのよ。菜緒が無事に帰って来たって分かったから。弘人くん、菜緒をお願いね」母親はそう答え、息子の後を追って帰っていった。

二人に悪いことをしたような気持ちになっている弘人の隣で、菜緒は幸せそうに彼の顔を見つめた。



菜緒の部屋は養護学校から歩いて通える距離にあり、弘人の家からは電車で1時間くらいで来れる場所。

二人が部屋に着いて暫くすると荷物を積んだトラックが到着し、荷物を運びながら「新婚さんみたいだなぁ」なんて菜緒が思っていると「新婚さんみたいだな」って弘人が照れくさそうに呟いて、二人顔を見合わせて笑った。

荷物をすべて運び終わり引越し業者が帰ると、積み上げられたダンボールを開けながら彼が今後のことについて話し始める。

「やっぱりもう一度親父さんに会いに行こうと思うんだ。
まだ結婚を許して欲しいって言えるような状況じゃないけど、またお付き合いしてますって事くらい、俺の口から言いたいんだ」

「うん。でもまた反対されたらどうするの?」

「どうもしないよ。許してもらえるように頑張るだけだよ。
もう何があっても別れたりしないから・・・ね!」

ずっと不安に思っていた事を弘人がハッキリと否定してくれ、菜緒は嬉しくて込み上げてくる涙を堪え優しく抱きしめる彼の胸に顔を埋めた。

「ねぇ 時々は泊まりに来てくれるよね?」

「廉が野球の遠征でいない週末もあるからなぁ。廉がいる時なら泊まりに来れると思うけど・・・。
去年母ちゃん病気しただろ?もう大丈夫なんだけど、夜一人にするのは心配なんだ」

「うん。楽しみにしてるね」

弘人の母親は長年の夜の仕事のツケがまわったのか肝臓を患って去年入院したのだ。

幸い手術する程ではなかったものの、それからは疲れ易く年齢的なこともあって弘人は母親の体の心配をしていた。

「今日は?」

「泊まれないけど、ゆっくりして帰るよ」

残念そうにする菜緒のおでこに優しくキスをして、もう一度そっと抱きしめる弘人。

だけど「なんでおでこ?」菜緒はちょっと不満そうだ。


つづく・・・

さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 4話 ≫
翌日、菜緒は実家に帰り「あたしがまた、弘人と付き合ってるのは知ってるよね?」そう両親に話を切り出し、父親はソファーに座り静かに娘の言葉に耳を傾けた。

「弘人がちゃんと逢って話がしたいって言ってるの。逢ってくれる?」

とうとうこの日が来てしまった。

父親は観念したように「菜緒がこっちに帰ってくると決まった時から、いつかそう言うんじゃないかと思っていたよ。
ちゃんと逢える時間は作るよ。私も話したいことがあるんだ」そう呟き、一人部屋に戻っていった。

「話したいことってなんだろ?」

菜緒は疑問に思いながらも、父親が素直に逢ってくれると言ったことが嬉しくて、深くは考えようとしなかった。

次の週末、菜緒の父親は仕事を早く切り上げ彼と逢う時間を作っり、弘人は一着しかないスーツに身を包み緊張した面持ちで彼女の実家を訪れた。

5年半ぶりに逢った菜緒の父親は、少し年を取ってはいたが相変わらず大人の貫禄のある男性で、弘人はごくりと唾を飲み込むと「ご無沙汰しています」と深々と頭を下げた。

5年半前、娘と別れてくれと差し出したお金を最後まで受け取ろうとしなかった青年の、真っ直ぐで強い眼差しが菜緒の父親には怖かった。

どうにかしなければ娘を奪われてしまいそうで。

しかし結局は別れさせることは出来ても、二人の絆を引き裂くことは出来なかった。

そして今、その青年はここにいる。

父親も二人の付き合いを妻から聞いていて、二人がどんなに真剣に付き合っているのかも分かっていた。

だから早くこの日が来ないかと、心の何処かで思っていたのかもしれない。

父親に促され弘人は、ゆっくりとソファーに腰を下ろした。

「君に逢うのは6年ぶりだね。あの時はあぁするしかなかったんだ。すまなかった」

頭を少し下げる父親に「分かってます」そう言って頭を上げるように告げる弘人。

「娘さんを、菜緒さんを守る為にした事だって。
それに、あの時の僕がもっと強ければ別れることもなかったんです。
あの時の僕は、菜緒さんを受け止めれるほど大人じゃなかった。
でも今は違います。将来の事も考えてお付き合いさせて頂いています。
今すぐには無理かもしれませんが、菜緒さんとの結婚を認めてください」

弘人は父親の目を真っ直ぐに見つめそう告げると、ゆっくりと頭を下げた。

「結局私は君の菜緒を思う気持ちに負けたのかなぁ」

小さく溜息を零しながら、父親は話を続けた。

「娘との将来についても考えてみてもいいと思っています。・・・ただ」

「・・・ただ?」

「菜緒にはうちの会社を継げる人と結婚して欲しいと思っています。
達也が跡を継がない以上、それが条件なんだ。
君は今、造船の会社で働いていると聞いたが・・・」

「はい。4年目になります」

「そこを辞めて、うちに就職する気はありますか?」

「えっ?・・・就職ですか?」

弘人が戸惑いを見せると、少し離れたダイニングテーブルに座って話を聞いていた菜緒が立ち上がった。

「お父さん突然何を言うの?弘人は亡くなったお父さんと同じ仕事がしたくて工場をたたんだ後、今の会社に就職したのよ。勝手なこと言わないでよ」

「今、神崎くんと話してるんだ。お前は黙りなさい」

捲くし立てるように投げつける娘の言葉を父親が遮ると、その迫力に負けて菜緒は言葉を飲み込んだ。

「お父さんにも色んな思いがあるのよ。聞いてあげて」

そう言って優しく娘の肩を抱き宥める母親に、菜緒だ黙って小さく頷いた。

「少しお時間を頂いてもいいですか?
僕はこれからも母や弟を守っていかなければなりません。
だからすぐに分かりましたとは言えないんです」

小さく頭を下げる弘人に「それは構わないよ。ゆっくりと考えてくれて・・・
ただその条件だけは変わらないからね」父親はそう念を押して席を立ち、奥の部屋に入っていった。

小さく溜息をつく弘人。

全く考えなかった事ではない。しかし実際に言われると正直キツイ。

亡き父のやっていた仕事に携わって行きたいという思いと、これからも母と弟を守っていかなければならないという責任。

何もよりも自分に会社を継ぐだけの能力があるのかという不安で、彼は戸惑いを隠せないでいた。


つづく・・・


さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 5話 ≫
菜緒の両親に逢ってから、弘人は悩んでいた。

今の造船の仕事が好きだ!でも、菜緒を諦めたくないし、出来るわけもない。

しかし会社を継ぐ程の自信もない・・・。

分かっているのは自分が何を守るべきで、人生を誰と歩んでいきたいのかという事だけだ。

後一歩を踏み出すことが出来ない弘人は、今の会社に入ってからずっと慕ってきた主任の原田に相談してみる事にした。

「原田さん 相談にのってもらいたい事があるんですが・・・」

弘人がそう言うと原田は「神崎が相談なんて珍しいな。わかった。今日飲みに行くか?」そう言って手でお酒を飲むマネをし、弘人は申し訳なさそうに頷いた。

そして仕事が終わった二人は、原田行きつけのちょっと小汚い居酒屋に訪れカウンターに並んで腰を下ろした。

「今日はわざわざすみません」

小さく頭を下げる弘人に原田はグラスを手渡しながら「いや、俺は嬉しいよ。お前に相談されて・・・」と優しい笑みを漏らせた。

原田のグラスにビールを注ぎながら話し始める弘人。

「実は付き合ってる彼女といずれ結婚したいと思ってるんですが、先日彼女の両親に挨拶に行って父親の会社に就職して行く行くは会社を継いで欲しい。それが結婚の条件だと言われたんです。
正直今の仕事が好きだし、親父のやってた仕事だから止めたくないって気持ちもあるし、会社を継げって言われても、そんな自信もないし・・・。
それにいずれ会社を継ぐってことはあっちの籍に入るってことだと思うんです。
でも俺は母や弟を守っていかなきゃいけないとも思ってるんです」

「それで悩んで俺に相談したってことか・・・」

「はい」弘人は小さく頷いた。

「お前はどうしたいんだ? お前にとって一番大事物はなんだ?
仕事か?彼女か?仕事なんてなんでも良いじゃないか。
お前が結婚したいと思うほど惚れた人だろ。
それなら絶対に手放しちゃダメだ。
お前の仕事ぶりは俺も認めてる。
だからお前が仕事をやめるのは正直もったいないと思う。
でもお前の仕事ぶりを見て来たからこそ、お前なら大丈夫だって思うぞ。
お前はいつも人の幸せばかり考えてきた。
今度は自分の幸せを一番に考えて良いときなんじゃないか?
おふくろさんや弟のことはどうにでもなるよ。
まずはお前が幸せになれ 神崎!」

原田は弘人の肩を優しく叩き、グラスに注がれたビールをグイッと一気に飲み干した。

弘人の胸に父親に対する思いにも似た感情が顔を出す。

もし親父が生きていたら、こんな風に言ってくれたのかなぁ・・・

「おふくろさんには相談したのか?」

「いいえ、まだ」

「ちゃんとおふくろさんと話せ。きっとおふくろさんも分かってくれるよ」

「母ちゃんはきっと反対しません。昔彼女と別れた時の原因が自分にあると思っているんで、今俺達が付き合っていることを喜んでくれてるんです」

「じゃあ問題はないじゃないか。覚悟を決めて前に進め!男だろ」

そう言って原田は弘人の背中を力強くバシッと叩き、原田の言葉で弘人は会社を辞める覚悟を決めた。

もう後には引き返せない。

きっと菜緒の父親に認めてもらえる男になって彼女を幸せにすると心に誓った。

その日の夜、弘人は母親に自分の素直な気持ち、そしてこれからの事を話した。

母親も息子が菜緒の両親に逢いに行ってから悩んでいることを心配していたが「反対されたのかい?」そう息子に問い掛けても「そんな事ない」「前向きに考えてくれるっていってくれたよ」と息子は作り笑いをして答えるのだった。

弘人が言わないのなら、無理に聞くのは辞めよう。

全て弘人が決めることだから、あたしはそれを受け入れればいい。

もうこの子の幸せの邪魔はしたくない。

そう思っていた母親は、自分の幸せに向いて歩き出した息子の決意を誇らしく感じた。



その週末、弘人は自分の決意を伝えるために、横須賀の彼女の部屋を訪れた。

自分の父親が出した条件に悩んでいる彼の事を心配しながらも、自分からは何も言うことが出来なかった菜緒。

弘人と別れたあの日「全てを捨ててよ」と言って彼を傷つけた事。

それが彼女の心に暗い影を落としていたのは言うまでもない。

もう二度と彼を傷つけたくはない。

弘人は彼女の手を握り締めながら、ゆっくりと話し始めた。

「俺決めたよ 会社来月辞めることにした。
菜緒の親父さんの会社で働くよ。
俺に何が出来るかとか、どこまで出来るかとか分からないけど、前に進むって決めたから菜緒は何も心配しなくていいよ。
ただこれからも、母や弟のことは守ってい。それだけは変えられないけど」

「わかってる。でも弘人、今の仕事好きなんだよね?」

菜緒がそう問い掛けると「今は菜緒との未来だけ見て進みたいんだ」弘人は優しく彼女を抱きしめた。

「ホントにいいの?迷いはない?」

「ないよ」

そう言って弘人は彼女を抱きしめる手にギュッと力を入れ「ごめんね」菜緒も彼をそっと抱きしめた。


つづく・・・

さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 6話 ≫
週末、弘人は菜緒の父親に会う為に、スタージュエリーの社長室を訪れた。

「その顔は覚悟が決まったと思っていいのかな?」菜緒の父親が返事を促すようにそう問いかけると

「はい 菜緒さんと結婚させていただくために、こちらで一生懸命勉強させていただきます。
ただ僕が働く上で、菜緒さんとのことは内緒にしていただきたいんです。
ただの新入社員として、一から勉強したいので・・・ よろしくお願いします」

弘人はそう言って深々と頭を下げた。

菜緒の婚約者として会社に入れば、ある程度社員からも一目置かれるであろう。

それをあえて、ただの新入社員として入社したいという彼の言葉に父親は驚いたが、それだけに彼の覚悟が見えた気がした。



梅雨明け間近な7月、弘人は慣れないスーツに身を包み、スタージュエリーの企画課にいた。

「今日から働いてもらうことになった神崎弘人くんだ。みんなよろしく頼むよ」

課長が彼を紹介した後、弘人は大きく深呼吸をして「神崎弘人です。前に働いていた仕事とは、全然違う職種なのでご迷惑をお掛けする事もあると思いますが、よろしくお願いします」 そう深々と頭をさげて挨拶をした。

するとその場にいた女性社員が色めき立ち、ざわざわと空気が揺れる。

着慣れていないとは云え、スーツに身を包み清潔感を漂わせる弘人は誰から見ても間違いなく好感を持てる男性だった。



弘人が入社した週末、会社から少し離れたこじんまりしたレストランで彼の歓迎会が行われることになった。

女性社員は弘人の隣をGETしようと揉めていたが、彼はそれを全く気にも止めず男性社員と楽しく会話を交わしながら、大好きなビールを味わった。

しかしそこへ、他の女性社員を押し退けるようにして弘人の隣に座る女性が現れる。

男性社員の間でも可愛いと評判の香川だ。

弘人が入社して来た日、たくさんの荷物を持って廊下を歩いている彼女に彼が優しく手を差し伸べて以来、香川は彼に近づくチャンスを伺っていた。

そう彼女は恋愛をゲームとして楽しむ、菜緒とは正反対のタイプの女性。

弘人も菜緒と付き合う前は、それなりにモテていたし遊んでもいた。

しかし彼女と付き合うようになってからは、全くと言っていい程他の女性に興味を持たず、それは香川に対しても変わらなかった。

ここ数日何度もアプローチを掛けるのに自分を全く相手にしない弘人に対して、香川は苛立ちさえ感じるようになり、今日は彼との距離を縮めるいい機会だと思っていた。

だが隣に座りあからさまに好意を表す香川に対して弘人は無関心。

その様子は周りの人間が見ていて面白いと思えるくらいで、プライドを傷つけられた彼女は「絶対に好きにさせてやる」そんな風にさえ思っていた。

2次会のカラオケに行っても香川の態度は変わらず、自分にべったりと寄り添いピンク色に色付いて見えそうな声の香川のアプローチを受け流す弘人の態度に疑問を持った女性社員が問い掛けた。

「神崎さんって彼女いるんですか?」

「いるよ」ビールを口にしながら答える弘人。

「どんな人ですか?」

「う~ん。可愛いかな。一途だし・・・」

照れる事もなく答える彼に先輩達は驚き、隣に座っていた香川は気に入らないという表情を見せながら、グラスに半分のカクテルを一気に飲み干した。

見た目かっこ良く、程よく遊んでいるように見える弘人。

先輩達には香川の事も、それなりに遊びで付き合えるタイプだと思われていたようだ。

「お前 案外真面目なんだな」

「案外ってどう言う意味ですか?」

先輩の言葉に苦笑いをする弘人。

そこへ彼の携帯に電話が掛かり、受信ボタンを押しながら慌てて部屋を出ると「もしもし 菜緒? ごめん遅くなって」と彼が優しい声で謝った。

会社で話す時とは違い、ゆっくりとした口調の弘人。

「帰りに泊まりに行っていい?・・・うん。待っててね」

そう言って彼が電話を切るとそこには香川が立っていて、驚きながら「何?どうしたの?」と彼が問いかけると「そんなに彼女が大事ですか?」ちょっと棘のある言い方をされた。

「うん。大事だよ。一番大事」恥ずかしげもなく穏やかな表情を見せる弘人に「ばっかみたい」冷たい言葉を投げつけると彼女は先に部屋に帰っていき、弘人は首を傾げながら、ふっと笑みを漏らせた。

先に部屋に戻った香川は彼に「ばかみたい」と言っておきながら、胸の奥が微かにざわつくのを感じながら彼女に話す彼の優しい声が頭から離れないでいた。

つづく・・・


さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 7話 ≫
あの歓迎会の日から弘人の存在が気になるようになった香川は、気のない素振りをしても彼の姿を自然に目が追ってしまうことも、他の男性とデートをしても以前ほど楽しくないことにも気付き始めていた。

今まで本気で男性を好きになった事のない彼女は初めての片思いに戸惑いながらも、それを素直に認めるのが悔しかった。


弘人といえば新しい仕事に慣れるのが精一杯で香川の気持ちに気付くわけもなく、毎日残業残業でヘトヘトになりながらも早く社長に認めてもらえるようになりたくて、ただただがむしゃらに働いていた。

その仕事ぶりが真面目な事、人間的にも先輩や上司に気に入られていることなどは部下の桜庭から聞いて社長も知っていた。

学校が夏休みに入った7月末

菜緒は弘人に逢う為に、久しぶりにスタージュエリーを訪れた。

「お嬢様 お久しぶりですね。今日はどうされましたか?」

自分が小さかった時から勤務している女性店員に声を掛けられ、彼を見に来たとも言えず「お父さんに用があって・・・」そう答えると、社長室の内線電話が鳴り菜緒が来ている事が伝えられ、父親は腕時計で時間を確認して溜め息を漏らせた。

「何しに来たんだ?」

「・・・お父さんとランチでもどうかと思って」

「お父さんはこれから出掛けなければいけないんだ。
それに弘人くんに逢いに来たんだろ?わかってるよ」

「でも会社じゃ弘人に逢っちゃいけないんだよね?」

「まぁ 弘人くんが内緒にしたいって言ってるし、仕方ないだろ」

「わかった」

そう言って寂しそうにする娘に思わず「少しだけ逢っていきなさい」と父親は言ってしまった。

私はいつからこんなに娘に甘くなったのかなぁ・・・



社長の部下の桜庭が企画課に行き弘人を呼び出すと「何でしょうか?」彼に呼び出される当てがなかった弘人は戸惑いを見せた。

すると桜庭は周りに聞こえないような小さな声で「お嬢様が3階の小会議室でお待ちです」と囁き、驚いた表情を見せる弘人に「社長からお嬢様との事はお聞きしております。
何かあった時に一人ぐらい知ってる人間がいた方が良いという事でしたので、何かありましたら私に言ってください」そう耳打ちをして仕事に戻っていった。

そして階段を駆け下り3階の小会議室に急いで向かう弘人。

香川がそれをこっそりと覗き見をしていて、彼がどこに行こうとしているかが気になり後をつけると「小会議室?何でこんなところに・・・?」中から話し声が聞こえてきた。

何を話しているのかは聞き取れないが、相手が女性だと言うことだけは分かる。

小会議室に入った弘人は「どうしたの急に?」そう言って菜緒に近づいた。

「お父さんが、ちょっとだけならいいだろう・・・って。仕事中なのにごめんね」

「いやいいよ。それより最近忙しくて逢う時間なくてごめんな」

「ううん。弘人が頑張ってるの分かってるから平気だよ」

「もうすぐお昼だからランチでもって言いたいんだけど、忙しくて出られそうにないんだ」

「顔見れただけでいいよ。あたしも帰るし・・・」

精一杯の笑顔を見せる彼女を、弘人は優しく抱き寄せると「ちょっとだけいい?」耳元で囁いた。

寂しいのを我慢して笑顔を見せる菜緒が愛おしく、彼女のおでこにそっと唇を押し当てる弘人。

しかし菜緒はちょっと不満の顔を覗かせる。

「ここ会社!」

「・・・わかってる」

彼はふっと笑みを漏らせると、可愛く拗ねた彼女の唇に小さなキスを落とし、もう一度愛しい彼女を優しくぎゅっと抱きしめた。

弘人が出て行った数分後に菜緒が小会議室から出て来たの目撃した香川。

しかし彼女が入社して2年、菜緒が会社を訪れるのは初めてで彼女には菜緒が誰なのかは分からなかった。

ただ会社でこっそり逢っているのを見て、弘人と何か関係があることだけは推測出来た。


つづく・・・



さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 8話 ≫
入社して3ヶ月が過ぎた辺りから弘人にも少し余裕が出来「週末逢えない?」菜緒にデートに誘うメールを送っていた。

実家に帰っていた菜緒は久しぶりの弘人とのデートに嬉しさを隠せずに、母親と会話をしている間もずっと笑顔が絶えず「どうしたの?何か良いことあった?」そう聞かれるくらいだった。

「ちょっとねぇ」

嬉しそうに答える娘の笑顔を見て、あの時結婚を止めたのはやっぱり間違いじゃなかったと母親は思っていた。

自分の一言がなければ、斉藤との結婚は破談にならなかったかもしれない。

あれで良かったのだろうか?

この2年半消えることのなかった思いが、この時薄れていくのを母親は感じていた。



週末二人は思い出の江ノ島へデートに行った。

亜祐太に気を使って5人で行ったデート。

それはそれで本当に楽しかった。

思い出話をしながら車を運転する彼の横顔を見つめ、菜緒が幸せの笑みを漏らせると「どうしたの?」弘人が不思議そうに問い掛けてきて「なんでもないよ」と彼女はまた笑った。

6年前 二人で書いた絵馬に「今度こそ、ずっと二人が幸せでいれますように」と書き込み、二人の幸せな未来を誓うと、その後向かった江ノ島水族館で弘人は思いも寄らない人に出会ってしまった。

知らない男性とデート中の香川だ。

うわぁ 菜緒のことバレた・・・そう思っている弘人に「この人が神崎さんの彼女さん?はじめまして」香川がそう挨拶をした事で、彼女が菜緒が社長の娘だと分かっていないことに気付きホッと胸を撫で下ろした。

「神崎さん会社でモテるんですよ!気を付けた方が良いですよ」

そう意味深な発言をして香川が挑戦的な目をすると、菜緒はきょとんとした顔をした後「大丈夫だよね?弘人」そう言って彼の顔を覗き込んでにっこり笑った。

弘人は菜緒のそう言う無邪気な所が好きなのだ。

弘人が彼女を見つめる眼差しが優しいことに気付いた香川は、胸が締め付けられるような痛みを感じながら、切ない気持ちになっていた。

やっぱり、この人が好き。



その日、菜緒の両親に夕食に誘われていた弘人は、ホテルのレストランに菜緒と二人で向かった。

思い出のインターコンチの、あのレストランに・・・。

そこで弘人は父親からある提案を受ける。

「年内いっぱい企画課で勉強をして、来年から私について勉強しないか?
弘人くんの仕事ぶりは桜庭から報告を受けている。
彼からの報告によれば、早いうちに私の仕事を勉強してもらっても良いのではないかと思っているんだが、どうだろう?」

「それって弘人の事認めたって事だよね?」

嬉しそうに菜緒が口を挟むと「菜緒 今弘人くんと話してるんだ」そう父親に怒られ、彼女はちょっと拗ねたように謝った。

「有難いお話なのですが、もう少し企画課で勉強したいんですがダメでしょうか?
もう少し仕事に自信がつくまで頑張ってみたいんです」

菜緒の父親が認めてくれたのは嬉しいが、まだ未熟なのは弘人自身が一番よく分かっている。

「分かった。君は結構頑固なんだね。褒めてるんだよ」

父親はそう言って彼にお酒を勧めながら、こうも言った。

「君が私について勉強する時が来たら、菜緒との事は公にするからね」

菜緒は少しずつ結婚に向けて進む日々を、信じられないような気持ちでいた。

昔あんな辛い気持ちで別れたのが嘘みたい。

こんな日はもう訪れないってあの時は思ったのに・・・。

自分の胸の中が幸せで満ち足りていくのを感じながら「ありがとう弘人。あたし今すっごい幸せだよ」彼を真っ直ぐに見つめながら微笑むと、弘人は少し照れたように笑って頷いた。

窓の外には、あの日と同じように観覧車の灯りが美しくクルクルと回っている。


つづく・・・
さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 9話 ≫
10月31日 菜緒は学校が終わった後、8時過ぎに弘人のアパートを訪ねた。

彼が残業で遅くなることは聞いていたが、6年前のハロウィンを思い出し、少しだけでも彼に会いたくなったのだ。

菜緒は彼の母親と一緒に料理をしながら、弘人と廉の帰りを待っている。

「菜緒ちゃん お料理上手になったのね。あたしは相変わらず苦手だわ」

「北海道に行っている間に少しずつ覚えたんですよ。
最初はホントに酷かったんですけど、最近やっとって感じですよ」

「弘人は何か言うの?」

「おいしいって言って食べてくれるんですけど、下手な時もそう言ってくれてたんで、どうなんですかね?」

「あの子らしいね」

「廉くんいつもこんな遅くまで練習してるんですか?」

「レギュラー取るんだって頑張ってるらしくて、いつもこんななのよ」

「弘人も廉くんも頑張ってるんだなぁ」

あたしは何を頑張ればいいんだろう・・・

そんな会話をしていると、アパートの外階段を駆け上がってくる足音が聞こえ、玄関のドアが開くと久しぶりに見る顔があった。

「廉くん!」

「菜緒姉ちゃん、どうしたの?」

「やっと逢えたね。横浜に帰ってきても廉くん野球の練習や試合で逢えなくて・・・。
2年ぶりかな? また大きくなったね」

久しぶりに逢う廉はすでに身長も弘人を追い越し少し男っぽくなっていて、菜緒は何だか高校生の弘人に逢っているような気持ちになり照れくさくなった。

「お腹空いたぁ。早くご飯食べようよ」廉がそう言うと「今日は菜緒ちゃんと作ったんだよ」と言いながら母親がご飯を茶碗によそい「菜緒姉ちゃん料理上手になったんだね」廉が思わず言ってしまった。

「そう言えば、昔チャーハン作ったよね。やっぱりアレおいしくなかった?」

心配そうに問いかける菜緒に「忘れた!」そう言って笑う廉。

どうやら兄弟二人して菜緒に気を使っているらしい。

「お母さんも廉くんも先に食べて。あたし弘人待ってるから」

「でもあの子何時になるか分からないよ。最近また帰りが遅いんだよ」

「もうクリスマス商戦の準備に入ってる時期だからなぁ」

菜緒がポツリと零すと「もう少し待って帰らなかったら、一緒に食べましょ」母親が彼女にそう告げた。

結局10時を過ぎても弘人は帰っては来ず、菜緒は彼に逢えないまま廉に駅まで送ってもらう事になり、駅までの道二人は高校の野球部の話、養護学校の話など色々な事を報告しながらゆっくりと歩いた。

廉が菜緒の歩調に合わせていたのだろう。

駅に着き券売機で切符を買いながら「少しでも弘人に逢いたかったなぁ」そう思ったとき、「菜緒?」いとしい声が聞こえ振り向くと会社帰りの弘人が驚いたような顔をして立っていた。

「どうしたんだよ。こんな時間に・・・」

「お兄ちゃんに逢いたかったからに決まってるじゃん」

「送ってくれたんだ。ありがとうな・・・廉」

「俺、帰るね。菜緒姉ちゃん、またね!」

二人に気を利かせ一人先に家路に着く廉。

「すれ違いにならなくて良かった。メールくれたら良かったのに」

「だって仕事忙しいの分かってたし・・・」

「そうだよな。ごめん。・・・じゃあ、家まで送るよ」

彼の言葉に「いいよ。疲れてるんだし、それに駅からはタクシーで帰るから大丈夫」菜緒は心配掛けないように寂しい気持ちを隠してにっこりと笑った。

「でも・・・」

「いいの。じゃあ送る代わりに、もう少しだけ一緒にいて」

そう言って彼に甘える菜緒。

二人は横須賀に向かう電車が来るまでの少しの時間、ホームのベンチに座って話始めた。

「ごめんな。まともに逢う時間作れなくて・・・」

「弘人があたし達のために頑張ってるって分かってるから、謝らないで。
あたしの方こそゴメンね。弘人に何もしてあげられなくて」

彼女が彼の肩に少しもたれかかるようにして謝ると「何で菜緒が謝るんだよ。俺が頑張るって決めたんだから。
きっと時間作るから、もう少しだけ待ってて」弘人が菜緒の髪を優しく撫で下ろした。

そこへ彼女の乗る電車がホームへ入ってくる。

ドアを挟むようにして立ち、手を繋ぐ二人。

「家に帰ったら電話して。心配だから」

弘人がそう言うと「分かった」彼女は寂しい気持ちを抑えて明るく答えた。

しかし電車の発車ベルが鳴ったと同時に弘人が電車に飛び乗り、ゆっくりとドアが閉まる。

「えっ? 弘人??」

「やっぱり送るよ。もう少し一緒にいたいんだ」

優しく微笑んで呟く弘人。

「でも・・・」

「菜緒 寂しい時は寂しいって言えよ。嬉しい時は嬉しいって言ってくれよ」

彼の言葉に菜緒は溢れそうな程の笑顔を見せ「嬉しい。すっごい嬉しい」と瞳を潤ませた。 

「でも、疲れてるんじゃないの?」

「菜緒のいると疲れ取れる・・・かも?」

「かも・・・って何よ」

ちょっと拗ねたように言う菜緒が可愛くて、彼は彼女の頭を優しくポンポンと叩いた。

弘人はドアにもたれ掛かるようにして、菜緒は彼にそっと寄り添うようにして、彼女の降りる駅までずっとおしゃべりを続けた。

弘人は平日なのに態々自分に逢いに来てくれた彼女が愛しくて、そっと菜緒の肩を抱き周りに気付かれないように「今日はありがとね」小さく囁きおでこにそっとキスをした。

駅に着くと電車を降り、今度は反対側のホームで弘人が乗る電車を二人で待つ。

「ちゃんとタクシーで帰れよ」

「うん。分かってる。弘人も気を付けてね」

「後で電話するから」

ホームに電車が入ってくると、二人寂しい気持ちを堪えて繋いだ手をギュッと握った。

発車のベルが鳴り、繋いだ手をそっと離すとゆっくりとドアが閉まる。

電車が動き出す寸前。ドア越しに声に出さずに彼が呟いた。

「あ・い・し・て・る」

電車が発車した後、帰宅するたくさんの人が行きかうホームには一人ニヤける菜緒の姿が・・・。

「もう、ちゃんと言ってよね・・・ばか」


つづく・・・



さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 10話 ≫
11月末 店舗ではクリスマス商戦も本格化して来たこの時期、少し早めの忘年会が企画課でも行われることになった。
企画課が飲み会を開催する時はいつも、弘人の歓迎会が行われたあのレストランらしい。

会社から企画課の数人と一緒に店に向かう弘人。

その中にも香川の姿もある。

今までの彼女は男性社員に対して特別な意味がなくても平気で腕を組んだりするタイプで、内心はドキドキしながら何の躊躇いもないように「神崎さ~ん」と言って弘人の腕に自分の腕を絡ませた。

弘人はちょっとビックリしながらも他の男性社員にもやっているのを見た事があり、さほど気にも留めずそのまま店に向かった。

弘人が入社して5ヶ月。彼はもう企画課に馴染んでいた。

誰にでも分け隔てなく接する彼の態度はみんなにも好かれ、仕事も真面目で頼まれたことを嫌とは言わずしっかりとこなし、回り対して良く気が利くところは小さいながらも工場を切り盛りしていたお陰なのだろう。

当の本人はと云うと、とにかく仕事に慣れることに精一杯でただがむしゃらに働いた、そんな気持ちしかなかった。

そして香川はと云うと、本気なのを悟られない程度に弘人と着かず離れずの距離を守っていた。

相変わらず他の男性社員とも遊んでいたし・・・。

3階の小会議室で弘人と逢っていた女性が誰なのかは未だに分からず気にもなっていたが、今日は少し勇気を持って彼にアプローチすることを決めていた。

みんなで盛り上がる中トイレに立った弘人を追いかける香川。

「神崎さん、この後2次会行くんですか?」

「行くつもりだけど、何?」

「あの・・・あたしと二人で飲みに行きませんか?」

「どう云うこと?」

「どう云うって・・・」

「俺、彼女以外の女性と二人で飲みに行ったりしないから。
彼女が誤解するようなことしたくないんだ」

「ホントに彼女が大事なんですね」

「うん。大事だよ」

「会社の小会議室で逢ってた人ですよね? 江ノ島で逢った彼女って・・・」

香川の言葉に弘人は驚いた。

「何で知ってるの?」

「たまたま小会議室から出てくるの見たんです。あの人誰ですか?
何で会社にいたんですか?教えてください」

参ったなぁ。見られてたなんて・・・弘人は苦笑いをしながら頭を掻いた。

「ちゃんと説明してくれないと、他の人に言っちゃいますよ」

答えを迫る香川の言葉に、本当のことを話す覚悟を決める弘人。

「彼女は社長の娘なんだ。もう付き合って3年ぐらいになる。
俺がこの会社に就職したのは彼女と結婚する為なんだ。
みんなにはまだ内緒だけど・・・」

「そうなんですか・・・な~んだ残念!」わざと軽い口調で答え香川。

「あっそれと、誰にでも腕組んだりするの止めた方がいいよ。
男はバカだから、それだけで勘違いするヤツもいるから」

弘人が諭すように告げると「すみませ~ん」香川は少し悲しそうな笑みを見せ走っていってしまった。

初めから相手にされてなかったんだ・・・

初めて知った胸の痛み。今まで感じたことのない切なさ。

その事を気付かれないために香川はいつもより明るくはしゃいでみせたが、弘人は何となく彼女の気持ちに気付いてしまった。

でも中途半端な優しさが余計にその人を傷つけることを知っている弘人は、決して彼女に特別な優しさを向けたりはしなかった。

会が盛り上がってきた午後9時前、弘人の携帯電話がなり彼は電話に出ながら席を離れた。

「菜緒 どうした?」

「・・・・・・・・」

「菜緒?」

「電話してごめんね。今日忘年会だって知ってたんだけど・・・」

「別にいいよ。それよりどうした元気ないけど?」

「・・・あのね、弘人に聞きたいことあって」

「うん 何?」優しく問いかける弘人。

「今日、お父さんに用事あって学校が終わった後会社に行ったの。
そしたら弘人が会社の人たちと出てきて・・・。
あの人、江ノ島で逢った人だよね。弘人と腕組んでたの・・・」

レストランに課のみんなで行く途中の様子を菜緒は偶然見てしまっていた。

「アレは気にするような事じゃないよ。
彼女は誰にでも、あぁやって腕を組んだりするんだよ。
だから俺も気にしてなかった。ごめんな」

「でも彼女、弘人が会社でモテるって言ってたよね?」

「ただ面白がって言っただけだろ。電話で話しても仕方ないから、帰りに菜緒の部屋に寄るよ。いい?」

「・・・・・・うん。分かった」

元気のない声で返事をして菜緒は電話を切った。

彼女の沈んだ声が気になり、弘人が2次会を早めに切り上げて菜緒の部屋に向かうと、玄関のドアが開くと彼女は何も言わず彼にそっと抱きついた。

「ごめん。そんな不安になった?」

優しく問いかけても返事はなく、彼の背中に回した手にギュッと力を入れる菜緒。

弘人は部屋に入り、彼女に優しく語り掛けるように話始める。

特別な意味はなく彼女が腕を組んできたこと。

自分がそれを全然気にしていなかったこと。

そして菜緒が心配するような事は何もないことを・・・。

「ねぇ菜緒? 俺がどんなに菜緒の事好きか分かってる?
他の女性なんか興味ないよ。
菜緒が不安になるって事は、俺の気持ち届いてないのかな?」

弘人はそう言って菜緒の頬に触れた。

「そうじゃないけど・・・だってあんなの見たら誰だって不安になるよ」

少し唇を尖らせて呟く彼女の顎を上に向けて、小さくチュッと音を立ててキスをすると菜緒は少し笑みを漏らせて彼の背中に腕を回した。




誰かを傷つけても、他の何かを捨ててでも、手に入れたい幸せがある。

もう二度と菜緒の手を離さない為に、今の自分に出来ること。

今はただ真っ直ぐに前だけを向いていたい。

「さがしもの」を見つけるために。



つづく・・・

さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 11話 ≫
今日は菜緒の27回目の誕生日。そう12月24日のクリスマスイブだ。

6年前はイブの前に別れたし、もう一度付き合い始めてからは菜緒が北海道に行っていて一緒には過ごせなかった。

だから今日は、初めて彼と過ごす誕生日。きっと素敵な一日になるはず。

今日を楽しみにしていた菜緒は散々悩んだ挙句、彼へのクリスマスプレゼントはスーツに似合う腕時計を買った。

それと「自分の部屋の合鍵」も・・・。

はっきり言って弘人が菜緒の居ない時に部屋に来ることはない。

だから今まであげる必要もなかったし、あげるタイミングも分からなかった。

でも子供っぽいのかもしれないが、彼に持っていて欲しかったのだ。

たまたま雑貨屋で見つけた可愛いクジラの付いたキーホルダーに部屋の鍵を付け、時計と一緒に渡そうと準備していた。

今年のイブはたまたま休日で、二人は朝からデートして夕方からは菜緒の部屋で一緒に誕生日を祝う予定を立てていた。

イブのデートに出掛けた先は、白い波の立つ「冬の海」

今日は晴れているとは言え、12月の海は当たり前のように風が冷たい。

「なんでこんな時期に海に行きたいって言うんだよ」

弘人が呆れたように呟くと「なんかさぁ 冬の海って恋人と行くって気しない?」菜緒が彼に寄り添いながら微笑んだ。

「全然しない。寒いだけじゃん」

「こうしたら寒くないよ」

そう言って菜緒は弘人の腕にしがみ付き「やっぱ寒いだろ!」弘人はちょっと呆れたように呟き笑った。

手を繋いで海岸線を寄り添って歩く二人。

もうこの手を離すことはないんだよね。

幸せを体いっぱいに感じながら、隣を歩く弘人の横顔を見つめる菜緒。

それに気付き弘人も優しく微笑み返す。

暫く歩いていくと、遠くで父親と息子がボールで遊んでいるのが見え、子供が楽しくはしゃぐ声が聞こえてくると、彼はそれを優しい眼差しで見つめた。

その時、菜緒の胸が少しだけ痛んだ。

弘人・・・ごめんね。

帰りの電車の中 隣でウトウトしている彼女を見て弘人は何も言わず自分の肩をトントンと叩き、菜緒は黙って彼の肩に寄りかかって目を閉じた。

彼はただ優しく微笑みながら彼女の寝顔を見つめ、電車の揺れに体を預けた。

電車を降りると菜緒の家の近くのスーパーで夕飯の材料とケーキを買い、部屋に入るとすぐにクジラの置物に灯りを点した。

そう、廉と弘人が作ったあの可愛いクジラの置物だ。

灯りの点いたクジラを見て二人顔を見合わせて微笑むと、そのそばにあったオレンジのイガイガを弘人は手にした。

「これまだ持ってたんだ?」

「うん。いつもは仕舞ってるんだけど、今日は飾ってみたの。
もうボロボロになっちゃった」

「そうだな。でも大事な宝物だな」

「うん。今日は一緒にいれて嬉しかった。初めてだよ、弘人と過ごすクリスマスイブ」

「菜緒の誕生日なのにな」

「そうだよ。いつも寂しかったんだからね」

「これからは毎年一緒に過ごそうな」

「うん。絶対ね」

二人で作った料理やケーキ、それとお酒もちょっとだけ・・・。

豪華なクリスマスではないけれど、二人で一緒に居られたらそれ以上は何も望まない。

弘人は彼女をそっと後ろから抱き寄せると、ポケットから取り出した小さな箱を差し出した。

もちろんダイヤの付いたエンゲージリングだ。

弘人は菜緒の左手をそっと持つと「ずっと一緒だからね」そう言って薬指にリングを嵌め「絶対だよ。もう離れたりしないよね」瞳を潤ませて問いかける彼女に「どんな事があっても絶対に離れないよ」答えて、自分の腕の中の彼女を優しくギュッと抱きしめた。

「愛してるよ」彼女の耳元でそっと囁く弘人。

電車のドア越しに初めて聞いた言葉。今度はちゃんと言ってくれた。

「あたしもプレゼント渡していい?気に入ってくれるかな?」

「時計じゃん。かっこいいな」

「ホント?弘人のスーツに似合うと思って。気に入った?」

「すっげぇ嬉しい。菜緒ありがとうな」

そう言って弘人は彼女にキスをして、それから二人は甘くて幸せな時間を過ごした。

弘人に愛される幸せ。肌で感じる彼の温もり。

菜緒は心が震え失うのが怖いと思う程の幸せを感じながら、愛しい彼の体を抱きしめた。



10時を過ぎ彼が帰らなければならない時間になると、菜緒が寂しくて彼の服の裾をちょっとだけ引っ張り、それに気付いた弘人は「ごめんな」そう言って彼女のおでこに優しいキスを落とした。

「駅まで送らなくていいの?」

「送られた方が心配だよ。ここでいいから。また電話する」

名残惜しそうにしながら、何度も振り向きながら帰っていく弘人。

次の瞬間「あっ合鍵渡すの忘れた」

菜緒は小箱を手にすると部屋を飛び出し、すぐに彼を追いかけた。

少し先の交差点を渡った所に彼が居るのが見えると「弘人~!!!」菜緒は彼の名前を呼びながら歩行者信号が青の点滅を始めた横断歩道を渡り始めた。

彼女の声に気付き弘人が振り向いた瞬間、バイクがスピードを出したまま右折して交差点に進入し、バイクの強いライトに驚いた菜緒はその場で動けなくなった。

「菜緒!」

クリスマスイブの夜、二人の幸せを奪い去ろうとするモノを拒むように、暖かな光に包まれた街に悲しげな弘人の声が響き渡った。

「菜緒!・・・菜緒~!!」



つづく・・・
さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 12話 ≫
深夜の誰もいない救急病院の手術室の前。

弘人は一人呆然とし、力なくソファーに座り込んでいた。

自分の目の前で起こった出来事が信じられず、震える手をギュッと握り締め彼女の無事を祈っていると、菜緒の両親、そして兄の達也が顔色を変えてやってきた。

弘人を見るなり凄い勢いで胸倉を掴み

「なんでこんな事になったんだよ」

達也が彼を怒鳴りつけると「今そんな事を言っても仕方ないでしょ!とにかく手術が無事に終わることを祈りましょう」と言って母親は息子を宥めた。

達也の言葉に黙り込み俯く弘人に「大丈夫だ。あの子はあんな病気にも勝った子だ。だからこんな事じゃ死なないよ」父親はそう呟き、彼の肩を優しく叩いた。

静まり返った待合室。

達也の貧乏ゆすりの音と溜め息だけが聞こえる中、誰かの足音が近づいてくるのが聞こえ振り向くと、警察の人が「弘人さんって方はいますか?」と問い掛けてきた。

「はい。僕ですが・・・」

「これが事故現場に落ちていましてね。
被害者女性の物じゃないかと思ったものですから。
あなたで間違いないですか?」

差し出された小さな箱には可愛いピンクのリボンと「弘人へ」と書かれたカードが添えられていた。

それは間違いなく菜緒の字だ。

「はい。間違いないです」

そう言って弘人は小箱を受け取ると、彼女がなぜ自分を追いかけてきたのか理由が知りたくて、すぐにリボンを解いて中身を確認した。

中に入っていたのは、可愛いクジラのキーホルダーに付けられた鍵。

それが菜緒の部屋の鍵だと云う事は直ぐに分かった。

手にした鍵を握り締めると、壁にもたれ掛かり崩れるようにして座り込んだ弘人。

自分の父親が亡くなった時でさえも泣かなかった彼が、大粒の涙を流し何度も何度も彼女の名前を呟きながら泣き崩れた。

ほんの数時間前まで菜緒は俺の腕の中にいたのに。

菜緒の柔らかい髪の感触も、暖かい温もりもこんなにもはっきり憶えている。

もうずっと離れないよ。毎年一緒にイブを過ごそうね。

そう約束したばかりだったのに・・・どうして。

お願いだ。もう俺から菜緒を奪わないでくれ。

もう二度と菜緒を失いたくない。

肩を震わせ小さくなって泣き崩れる彼を見て、もう誰も声を掛けることは出来なかった。

それから数時間後、手術中のランプが消えると担当医が手術室から出てきて、父親が少し震える声で問い掛けた。

「先生、娘は、娘はどうなんですか?」

一呼吸置いて話し始める担当医。

「手術は成功しました。ただ・・・」

「ただ?」ごくりと唾を飲み込む。

「腕や足の骨折などはリハビリをすれば生活になんの問題はくらい回復すると思うのですが、頭を強く打たれているので、意識が回復してみないと何とも言えません。
何か障害が残るかもしれませんので、その辺は覚悟しておいてください」

担当医はそう言って会釈をして、また手術室に戻っていった。

「取りあえず命は助かったんだから喜びましょ」

母親がみんなを励ますように出来るだけ明るく声を掛けると「そうだな。これからの事は菜緒の意識が戻ってから考えよう」父親がホッとしたように呟き、小さく頷く母親と達也の隣で弘人一人が何か大きな不安に包まれていた。



菜緒が意識を取戻した時絶対に彼女の傍にいたかった弘人は、それから3日間仕事を休んで泊りがけで彼女に付き添った。

朝方、ベッドの脇にうつ伏せてウトウトしていると「・・・ぅ~ん」菜緒の声が聞こえた気がした弘人は、「菜緒!菜緒!」彼女の手を握り締めて、何度も何度も名前を読んだ。

するとそこへ菜緒の両親が現れ「どうしたんだね 弘人くん?」父親に問い掛けられた彼が「今菜緒が声を出したんです」と答えると「ホント?菜緒!菜緒!」母親も一緒に彼女の名前を呼び始めた。

すると弘人が握り締めている彼女の手の指がピクリと動き、菜緒がゆっくりと目を開け「お母さん」と一言呟いた。

病室にホッとした空気が流れる。

「ここどこなの?」

不思議そうに問い掛ける娘に「病院よ。あなた交通事故に遭ったのよ。でももう大丈夫」母親がそう答えると「交通事故?」菜緒はそう呟いて自分の手を握り締めている弘人を見て首を傾げた。

「お母さん この人誰?」

「何言ってるの? あなたの婚約者の弘人くんよ」

「お母さんこそ何言ってるの? あたしまだ高校生だよ。結婚なんて・・・・」

真顔で答える彼女の様子を見て、体から力が抜けていく弘人。

握り締めていた彼女の手がするりと離れ落ちると、視界から全ての色を無くしたような感覚が彼を襲った。

彼女の中から自分の存在が消えてしまったと云う事実が、直ぐそこまで訪れていた二人の幸せを奪い去ろうとしている。


つづく・・・
さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 13話 ≫
その日の午後、菜緒が検査を終えて病室に帰ってくると、菜緒の両親と弘人は主治医から詳しい説明を受けることになった。

正直今の弘人には、彼女の病状を聞くことがとても怖かった。

重い足取りでカウンセリングルームに向かう弘人を気使うように、菜緒の母親が彼の背中に優しく触れて部屋に入るように促すと、待っていた主治医が直ぐに説明を始めた。

「検査の結果、脳の方に異常は認められませんでした。
ただ強い衝撃を受けたことで、ここ8~9年の記憶をなくされていますね。
これは個人差があるので何とも言えないのですが、記憶が戻ることを祈るしかないでしょうね」

淡々とした口調で説明を続ける主治医。

「左大腿部と左肘の骨折はリハビリを入れて全治5ヶ月ですね。
2ヶ月ほどで退院して、その後は通院でリハビリしてもらう形になると思います。
他に質問はありますか?」

そう問い掛けられた父親が口を開いた。

「娘の記憶は戻りますか?」

「正直分かりません。
前例を見ても2~3日で戻った人もいれば、半年、1年後に戻った人もいます。
10年後に戻った例もありますし、反対に一生戻らなかった人もいますから」

「一生・・・」

その言葉が弘人の胸に突き刺さる。

このまま菜緒の記憶が戻らなかったら、俺達はいったいどうなるんだろう・・・。

弘人の心の中を不安だけが埋め尽くしていった時「とにかく暫く様子を見ましょう・・・ね!」母親が彼を励ますように優しく微笑み呟いた。



彼女のいる病室に戻ることが出来ず、待合室のソファーに座って考え込む弘人。

「もしこのまま・・・」

そう思うと胸が張り裂けそうな程苦しい。

何度も溜め息を漏らす弘人を遠くから見ていた父親が、彼に近づき声を掛けた。

「隣いいかい?」

小さく頷く弘人。

「こんなことになって、本当にすまない」

「いえ、菜緒が悪い訳じゃありませんから。
ただ不安で・・・どうして良いのか分からないんです」

小さな声で呟く弘人に「先生も言っていたように、いつ記憶が戻るか分からないんだ。希望を捨てずにいて欲しい。
君も辛いかもしれないが、記憶が戻るように菜緒の傍いてやって欲しいんだ」父親はそう言って頭を下げた。

「僕は大丈夫です。不安でも何でも菜緒の傍にいます。
もう離れないって約束したんです。だから信じて待ちます」

口ではそう言ったものの、弘人はどうしても心の中の不安を消すことが出来なかった。



その日の夜、弘人は3日ぶりに家に帰った。

彼の母親は菜緒が事故に遭ったと聞いて次の日の朝すぐに病院を訪れていたが、彼女の状況が思わしくなかった為、息子に着替えだけを手渡して帰っていた。

それから毎日息子から電話があったが、菜緒が目覚めないまま3日が過ぎきっと寝ていないであろう弘人の体を心配していた。

今朝の電話で菜緒の意識が戻ったと聞いた時はほっと胸を撫で下ろしたが、その時の息子の声に元気がない事が気掛かりだった。

「菜緒ちゃんはどうなの?」と言う母親の問い掛けに「大丈夫だよ」とだけ答えて自分の部屋に入っていく弘人。

母親は息子の様子が明らかにおかしい事に気付いたが、疲れているであろう彼を気遣い、話を聞くのは明日の朝にすることにした。

弘人が部屋に入ると弟の廉が机に向かい勉強をしていて「お兄ちゃんお帰り。菜緒姉ちゃん大丈夫なの?」と問い掛けてくる弟に

「あぁ!」弘人は気のない返事をし、それ以降は何を聞いても口を開くことはなかった。

ベッドの上に転がり自分の掌をジッと見つめる弘人。

掌の中 菜緒にあげたはずの指輪が、ライトに照らされて光っている。

「看護婦さんがケガをした菜緒の指から外し渡してくれたんだけど、菜緒の血で汚れていたからお店にクリーニングに出していたの」

そう言って彼女の母親に差し出された指輪。

「菜緒が目覚めたら渡してやってね」

そう言って渡された指輪を、目覚めた菜緒に渡すことは出来なかった。

病院で殆ど睡眠を取っていない弘人。

しかし、菜緒のことが気になり、眠ることなんて出来ない。

ただ自分に何が出来るのか。どうすればいいのか、どうしたいのか・・・そればかりを考えていたが、何度考えても結局は「今までのように菜緒の傍にいたい」そこへ辿り着くのだ。

それ以外の答えなんて、見つかるわけがない。



次の日の昼 ようやく起きてきた弘人。

結局朝方まで眠れなったらしい。

そんな彼に母親は冷静な声で問い掛ける。

「菜緒ちゃんどうかしたのか? お前の態度見てたら分かるよ」

すると重い口を開き弘人が話し始めた。

「菜緒の記憶が・・・ないんだ。
俺と出会う前の記憶しかないんだ」

「記憶がないって・・・戻るんだよね?」

「分からない。医者にも誰にも分からないんだ」

「どうするんだい?弘人」

「どうもしないよ。今まで通り菜緒の傍にいる。それだけだよ」

一生懸命に笑みを漏らす息子が、一番不安なのは分かっている。

だけどそんな息子に「きっと菜緒ちゃんは思い出すよ」そんな言葉しか掛けてやれない自分の不甲斐なさを申し訳ないと思いながら、母親も小さく笑みを漏らせた。



つづく・・・


さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 14話 ≫
菜緒に逢う為に病院を訪れた弘人。

彼女が自分に対してどんな反応を見せるのか不安になっていた彼が病室のドアを開けられないでいると、スーっとドアが開き菜緒の母親が中から出てきた。

「あらっ弘人くん。何してるの?中に入って!」

母親は弘人の腕を掴み引き入れると「どうぞ!」そう言ってベッドの隣に椅子を出し「お母さん売店に行ってくるわね」財布を手にして出て行ってしまった。

沈黙が病室の中を支配する中、優しい目で菜緒を見つめる弘人。

しかし菜緒は、そんな風に彼に見つめられてどうしていいのか分からない。

思わず顔を逸らし窓の外に視線を逸らしたが、彼の事が気になり視線を戻すと彼は菜緒を見つめたままだった。

母親から弘人が恋人だと聞いてはいても、今の菜緒にとっては彼は全くの知らない人。

その知らない人に優しい眼差しで見つめられ、菜緒は恥ずかしいとも違う不思議な感覚を感じていた。

長い沈黙の後、弘人に問い掛ける菜緒。

「ねぇ あたしは本当にあなたの恋人だったの?」

「うん。そうだよ」

彼女を包み込むような優しい声で答える弘人。

「あたしはあなたを何て呼んでいたの?」

「弘人って呼んでたよ」

「呼び捨てなの?」

「そう。俺が最初にそうしてって言ったから」

「なんだか・・・呼びにくいね」

「別に呼び方なんてどうでもいいよ。好きに呼べばいい」

「じゃあ・・・弘人くんでいい?」

「いいよ」

そう答えたものの、弘人は菜緒に距離を作られたようで寂しい気持ちになった。

しかし彼女にはそんなつもりはなかったのだ。

ただ知らない男性を呼び捨てにするなんて恥ずかしかっただけ。

「菜緒 俺はどうすればいい? 今までと同じようにしてていいのかな?」

囁くような優しい問い掛けに、弘人の顔を見つめる菜緒。

「菜緒にとって今の俺は知らない人だろ? 
でも俺にとっては菜緒は菜緒で・・・。どうしていいのか分からないんだ。
今までのように菜緒の傍にいたけど、菜緒の気持ちはどうなんだろう・・・って」

「・・・ごめんなさい」

彼に謝ることしかできない菜緒。

「謝らなくていいよ。菜緒が悪いわけじゃないし。
ただこのまま想い出してもらえなかったら・・・って不安にはなるけど」

弘人の言葉が菜緒の胸を締め付ける。

自分が記憶をなくしたせいで、こんなにも彼を苦しめているなんて。

言葉に困り黙り込んだ彼女を見て、慌てて謝る弘人。

「ごめん。菜緒にそんな顔させるために来たんじゃないのにな」

出来るだけ明るい声で話す彼に、菜緒は黙って横に首を振って答える。

「菜緒 また逢いに来ていい?」

弘人の問い掛けに「いいよ」と答える菜緒。

「じゃあ また来るね」

弘人がそう言って、いつものように彼女の頭をポンポンと優しく叩こうと手を伸ばすと、菜緒の体が無意識にビクッと云う反応を見せた。

それを見て、彼女に触れそうになった手を握り締め小さく溜め息を漏らせると「またね」悲しそうな笑顔を見せ彼は病室を出て行った。

いつも彼女が好きだと言っていた行為さえも、今の彼女には届かない。

こんなに近くにいるのに、触れることも出来ないなんて。

病室の外、弘人は自分の掌をジッと見つめて深い溜め息を漏らせた。




年が変わるその時間。家の窓から外を眺めながら彼女を思う弘人。

何の疑いもなく、二人で一緒に除夜の鐘を聞くと信じていた。

あの日までは・・・。

どんなに傍にいても、触れることさえも出来ない現実。

もう離すことはないと思っていた菜緒の手が、今はとても遠くに感じる。

「ねぇ お兄ちゃん」

その時、廉が話しかけてきた。

弘人はカーテンを閉めると、弟の話を聞くために傍にあった椅子に腰を下ろして廉の方を向いた。

「菜緒姉ちゃんの事考えてたの?」

「何で?」

「お兄ちゃん 凄い悲しそうな顔してたから・・・」

「・・・・・・」弘人は何も言えなかった。

「お兄ちゃんは菜緒姉ちゃんの何が好きなの?」

「えっ?」

「お兄ちゃんが好きなのは、記憶がある昔のお姉ちゃんなの?」

「そうじゃないよ。今の菜緒だって同じ菜緒だから・・・」

「じゃあ、どうしてそんな顔するの?
菜緒姉ちゃんが無事だったんだから、それでいいんじゃないの?」

廉の言葉に弘人はハッとして、あの日病院で菜緒の命が助かればそれでいい。そう思って泣いた事を思い出した。

彼女の命が助かれば、それ以上は何も望まない。そう思ったはずだったのに・・・。

「そうか、お兄ちゃん大事なこと忘れてたんだな。
菜緒が生きている、それだけでいいんだよな。大事なこと気付かせてくれたありがとうな、廉」

弘人は優しく微笑みながら、自分の気付かない間にか廉が大人になっていた事に驚いていた。

弘人は心の中に立ち込めていた深い霧が晴れそうな気配を感じて、ちゃんと今の菜緒と向き合ってみようと気持ちを新たにして歩き出す決心をした。

真っ暗な夜に響き渡る除夜の鐘を聞きながら・・・。


つづく・・・

さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 15話 ≫
年が明け仕事が始まり忙しくなっても、弘人はなるべく時間を作って菜緒に逢いに行くようにしていた。

相変わらず「弘人くん」と呼んでくる菜緒。

それがちょっと照れくさかったりするけど「それも新鮮でいいのかな?」なんて思ったりもしている。

これと云って特別何をするわけでもなく、ただ彼女の暇つぶしの相手になれればいい。

それくらいの気持ちで弘人は、彼女と他愛もない時間を過ごしている。

そして菜緒は彼が逢いに来てくれることが、正直嬉しかった。

自分が記憶を取戻さない事への罪悪感も感じていたし、両親や友達から「何か思い出した?」と聞かれることが辛かった菜緒にとって、何も言わずにただ傍にいてくれる弘人の存在は救いだった。

他愛もない話をする為に仕事の合間を見つけては逢いに来てくれる彼。

それだけで記憶をなくす前の自分が、どれだけ大事にされていたのかも想像できた。

「ごめんね」

何気ない会話の中で、突然菜緒が謝った。

「どうしたの?」

驚いて彼女の顔を覗き込む弘人。

「記憶全然戻らなくて、ごめんね」

「いいよ。いつか戻るかもしれないし、もし戻らなくても・・・それでもいいよ」

「どうして? あたし弘人くんの事何も覚えてないんだよ。 それでもいいの?」

「いいよ。菜緒がこうやって生きててくれた。 今はそれだけでいいんだ」

自分を優しい瞳で見つめて囁く弘人の言葉に、菜緒は胸の奥が微かにざわつくのを感じた。



会社の方では社長の娘が事故に遭った事。そして記憶をなくしてしまった事がどこからか漏れ、噂の的になっていた。

その娘の恋人が弘人だと知らない会社の先輩達は、彼の前で平気でその話題をしたりもする。

「お嬢さんって学校の先生だったんでしょ?
これからどうなるんだろうね」

「恋人とかいたのかな? もしいたら彼氏可哀想だよね」

そんな会話が繰り広げられることも少なくなく、そんな時決まって香川が「そんな話、社長の耳に入ったらどうするの?」そう言って話を中断させた。

彼に少しでも嫌な思いをさせないようにと気遣う香川。

今の弘人には、彼女の優しさは正直有り難かった。



それから数日後、裕子が神戸からお見舞いにやって来た。

病室に入るなり「ごめんね、菜緒。すぐにお見舞いに来れなくて」そう言って謝る裕子の顔をジッと見つめて「裕子大人っぽくなったね」菜緒はそう呟いた。

「何言ってるの菜緒。あたし達もう27だよ」

「・・・らしいね」

「そっか、実感ないんだ?」

裕子の言葉に黙って頷く菜緒。

「体の方はどう?」

「うん、大丈夫!もうすぐ車椅子に乗れるようになるの。

そしたらトイレだって行けるし、散歩だって行けるよ」

一生懸命に笑顔を見せる菜緒だったが、裕子には無理していることは分かっていた。

「ねぇ 元気ないけどどうしたの? 何かあった?」

「・・・裕子には分かっちゃうんだね。
お父さんとお母さんに記憶を思い出せって言われると辛くって」

「思い出せって言うの?」

「ハッキリとは言わないよ。でも分かるの・・・遠まわしに言ってても。
思い出せって言われる度に、今の自分を否定されてるみたいでなんかね・・・」

「弘人くんは何て言うの?」

「ゆっくりでいいって・・・もし思い出さなくても構わないって」

「じゃあ、思い出さなくてもいいんじゃない?」

「えっ? そんな事可哀想だよ・・・弘人くんが」

「ねぇ 菜緒。あたし思うんだけど、このまま記憶取戻さなかったとしても菜緒と弘人くんは大丈夫だと思うよ」

「どうして?」

「だって弘人くんと菜緒の絆は、菜緒が記憶なくしたくらいじゃなくならないよ。
あたしずっと二人を見てきたんだよ。それくらい分かるよ。
菜緒はねぇ・・・きっとまた、弘人くんに恋をするよ。
記憶なんて全然関係なくて、今の菜緒が弘人くんを好きになる。
菜緒・・・いらないこと考えずに真っ直ぐに彼を見てごらん。
そして、もしその時が来たら素直になりなさいよ。
きっと弘人くんは全部受け止めてくれるからね」

菜緒は裕子の言葉に小さく頷いて答えた。

ホントにそんな日が来るのかなぁ?



もうすぐ2月になると云う頃。菜緒はやっと車椅子に乗ることを許された。

まだ介助がないと乗れないが、トイレに行ける事はもちろん、散歩に出れることが何より嬉しかった。

彼女が車椅子に乗れるようになったその週、ずっと仕事が忙しく1週間ほど顔を出すことが出来なかった弘人が久しぶりに彼女の元を訪れた。

弘人が病室のドアをノックし部屋に入ると、菜緒は一人車椅子に乗る練習をしていて「弘人くん」嬉しそうに顔を上げた瞬間、バランスを崩し倒れそうになった。

咄嗟に彼女を受け止める弘人。

そして「いい?」確認をしてから彼女を優しく抱き上げベッドに運んだ。

「・・・ありがとう」

突然の出来事にドキドキしながら恥ずかしそうにお礼を言う菜緒に「何やってんだよ。もし倒れたりして繋がりかかった骨がまた折れたらどうするんだよ」そう言って怒る弘人。

初めて彼に怒られた菜緒は目を丸くして驚いている。

「・・・あっ ごめんなさい。弘人くんでも怒るんだね」

「当たり前だろ。こんな事したら心配するに決まってるだろ」

「だって弘人くん、あたしの前ではいつも穏やかで怒ったりした事ないから・・・」

「そうだな。最近菜緒とケンカしてないな」

そう呟いて口元を綻ばせる彼の表情が、昔を思い出し懐かしんでいるように見え菜緒は胸が苦しくなった。

弘人くん、ああ言ったけどやっぱり思い出して欲しいんだよね。

「ねぇ 何で無理して車椅子に乗ろうとしてたの?」

弘人がそう問い掛けると「早く一人でも散歩に行けるようになりたかったの。

部屋にずっといると息が詰まるよ」不満そうに答える菜緒。

「わかった。じゃあ散歩に行こうか」

弘人は彼女に優しく上着を掛けると、車椅子に乗せて中庭の散歩に連れ出した。

今日は天気が良くこの時期にしては暖かい方で、弘人は車椅子を押しながらゆっくりと歩いた。

「菜緒 仕事の方はどうなるか聞いた?」

「うん。お母さんに聞いたよ。
あたしの記憶が戻らないことも話した上で取りあえず退院して1ヶ月ぐらいまでは休職にして、その後はリハビリを兼ねて学校の方にアルバイトとして一日数時間 週2~3回ぐらいで通うのはどうですか?って校長先生が言ってくれたみたい」

「いい話じゃん 受けるの?」

「まだ自信ないな。だって学校の先生なんて出来るのかな? 今のあたしに・・・・」

「難しく考えなくていいんじゃない。
記憶がなくてもきっと体が覚えてることもあるだろうし、リハビリを兼ねてって言ってくれてるんだろ?」

「うん もうちょっと考えてみるね」 

今のあたしじゃダメだよ・・・きっと。

彼女の表情が曇ったことに気付いた弘人は、それ以上仕事の話をするのは止めることにした。

「リハビリ始まるんだろ?いつからなの?」

「来週かな?」

「かな?って・・・自分のことだろ!」

弘人は呆れたように笑うと「辛いだろうけど、ばんばってね」そう言って彼女を励まし、彼の顔を見上げながら菜緒はニッコリ笑って頷いた。



つづく・・・

さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 16話 ≫
菜緒が入院してもうすぐ二ヶ月。

リハビリも順調に進み退院も間近に迫ってきた。

すでに左手のギブスは外され、今は一生懸命松葉杖で歩く練習をしている。

まだしっかりと歩くことは出来ないが一人で車椅子には乗れるし、腕のギブスが外れたことで一人車椅子を動かせるため以前より不自由なく動き回れるようになっていた。

菜緒の母親は、毎日娘の見舞いに来ては身の回りの世話をしていたが、菜緒はそれが少し重たいと感じることがあった。

はっきりと言う訳ではないが、娘の記憶が戻る切っ掛けになればと時々思い出話をする事が、菜緒にはちょっと辛かった。

彼女だって思い出したくない訳ではない。

だが、思い出そうとしても無くした記憶の部分だけが霧がかかったように霞んで、そこに誰も寄せ付けようとはしない、そんな感覚なのだ。

母親から記憶を取り戻せと急かされているように感じる時、いつも菜緒は心の中で叫んでいた。

「お母さん ちゃんとあたしを見てよ。今のあたしを見てよ」と・・・



それから数週間後、菜緒は退院して横浜の実家に帰った。

横須賀にある菜緒のアパートは、もしかしたら菜緒が記憶を取り戻し学校に復帰するようなことがあるかもしれないとずっと借りたままになっていたのだが、退院しても彼女の記憶が戻らなかったことで結局引き払うことになった。

もう少し不自由なく歩けるようになったら養護学校にアルバイトとして通うことになったのだが、記憶が戻っていない菜緒に一人暮らしをさせる訳にもいかず、こうするしかなかったのだ。

菜緒が実家に帰ってからも弘人は時々逢いに行ったり、時間が出来たときは二人で出掛けたりもしていた。

菜緒にとって弘人と過ごす時間はとても穏やかで心地が良かったが、時々彼が見せる昔を思い出して微笑む表情が、彼女を苦しめたりもしていた。

弘人は決して菜緒の前では昔話はしない。

でも彼女には分かってしまうのだ。彼が昔を思い出していることが・・・。

「菜緒 今日はどこ行きたい?」

弘人の問いかけに「今まで弘人くんと行った事ないところ」菜緒は冷たくそう答え「行ったことない所?・・・どこがいいなか?」もう一度問いかけてくる彼に「どこでもいいよ」と投げやりに答えた。

拗ねたように様子の菜緒に、自分の何がいけなかったのか分からず戸惑いを見せる弘人。

菜緒 何で怒ってんだろ?



退院して1ヶ月が過ぎ、菜緒がアルバイトとしてまた学校に行く日がやってきたが、正直菜緒は不安で仕方なかった。

今の自分に何が出来るんだろう。

生徒のことは勿論。仕事のことも全然覚えてなくて、ただ迷惑をかけるだけではないだろうか・・・。

そんな思いが彼女の胸を埋め尽くしていた。

菜緒は母親に学校まで車で送ってもらい松葉杖を突きながら門を入って行くと、彼女に気付いた数人の生徒が「月丘先生~!」そう言って走り寄ってきた。

もちろん菜緒に生徒たちの記憶はない。

「こんにちは」緊張した面持ちで挨拶をする菜緒。

「良かった。また先生が帰ってきてくれて。ずっと待ってたんだよ」

一人の生徒が話し始める。

「先生の話、みんなちゃんと聞いてるよ。あたし達のこと分からないんだよね?」

「うん。ごめんね」

「謝らなくてもいいよ。だってまた先生と仲良くなればいいだけじゃん」

女子生徒の明るい声でそういわれ、菜緒は今の自分の居場所がここにはあるように感じて少しほっとした。

「じゃあ一人ずつ自己紹介するから、憶えてね」

「あたしは中3の○○○○です。前は○○ちゃんって先生に呼ばれてたよ」

「俺は中2の○○○○。先生のクラスの生徒だったんだよ」

一人ずつ丁寧に彼女が憶えやすいように自己紹介を始める生徒たち。

心に生徒たちの優しい気持ちが流れ込み、菜緒は心の中から不安の欠片が少しずつ消えていくのを感じていた。

あたし頑張ってみる。この子達の気持ちにちゃんと応えたい。

初めからやり直そう。思い出せないなら憶えればいいんだ。

ちゃんとこの子達と向き合って、勉強していこう。

生徒たちの優しい気持ちと一緒に、菜緒の心に小さな光が差し込んできた。

その日の夜、菜緒はたった一言

「あたし仕事頑張ってみる。きっと大丈夫!」

それだけ書いたメールを弘人に送った。

そのメールを読み優しく笑みを漏らしながらも、時々見せる彼女の悲しそうな表情が弘人は気になっていた。


つづく・・・

さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 17話 ≫
菜緒が養護学校にアルバイトに行き始めて1ヶ月がたった。

生徒や周りの教師の支えもあり、最初の頃彼女が感じていた不安は今では嘘のように消え、まだ思うように動けず迷惑を掛けてしまうこともたくさんありながらも、彼女は今の自分に出来ることを精一杯に頑張っていた。

少しずつではあるが自信を取り戻し始めていた彼女は、ある日の夜珍しく早く帰ってきた父親と一緒に夕食を取ることになった。

父親と一緒に食事をするのは何ヶ月ぶりだろう・・・。

母親と作った料理を並べながら学校での出来事を話していた時、父親が言った一言が菜緒の胸に突き刺さり感情を抑えきれなくなった彼女は自分の思いを両親にぶつけてしまった。

「菜緒 仕事の方は少しずつ覚えてきてるんだよな?
何か思い出した事はないのか?
些細なことでも思い出したりしてないのか?」

「お父さん いい加減にして!
あたしだって思い出したくない訳じゃないよ。
だけど思い出したくても思い出せないの。
それに思い出さなくても、ちゃんとやってるじゃない。
あたし頑張ってるじゃない。どうしてそんなに思い出せって言うの?」

「菜緒 どうしたんだ?そんな怒るような事なのか?」

「お父さんも、お母さんも無神経だよ。
いつもいつもあたし思ってた。
お父さんとお母さんに昔の話される度に遠まわしに思い出せって言われてるみたいだな。
今のあたしじゃダメなのかな?って・・・
だからあたし頑張ってるのに、どうして今のあたしを見てくれないのよ」

菜緒は押し込めていた思いを両親にぶつけると、自分の部屋に閉じこもってしまった。

菜緒の部屋のドアの前、母親が優しく声をかける。

「菜緒ちゃん ずっと苦しかったの?お母さん達菜緒ちゃんの気持ち分かってあげられてなかったんだね。ごめんね」

「今の菜緒がダメだって思ってる訳じゃないんだ。
ただ弘人くんの為に少しでも早く思い出して欲しいとは思っていたのは事実だ。すまない」

父親が娘に謝ったのは初めてかもしれない。

菜緒だって本気で両親が無神経だと思っていたわけではない。

ただ自分だって思い出したいと思っているのに思い出せない苛立ちを、どうしようもなくて両親にぶつけてしまっただけなのだ。

「・・・ごめんなさい。酷い言い方して」

ゆっくりとドアが開く。

「お母さんたち焦りすぎていたのね。だから菜緒ちゃん傷つけちゃったのね。
そうよね。菜緒ちゃん今頑張ってるのに昔の事言い過ぎたね。
でもね。何でもっと早く言ってくれなかったの?
お母さん達はその方が悲しいな。
家族なんだから、もっと甘えていいのよ」

菜緒は大きな瞳を潤ませながら、何度も小さく頷いた。




菜緒が部屋で一人これからの事、そして自分がどうしたいのか考えていると、弘人から電話が掛かってきた。

「もしもし?」

「菜緒、今何してた?」

「・・・・・・・・・」

「菜緒?」

「・・・・・ごめん。何でもないの」

「何かあったんだろ? どうした?」

「ちょっとお父さん達とケンカしちゃって・・・でも、もう大丈夫だから」

「仲直りしたの?」

「うん。・・・ねぇ 弘人くん今どこ?」

「まだ会社だよ。もう少し残業」

「そうなんだ。頑張ってね」

「うん。じゃあ切るね」

「えっ? 用があったんじゃないの?」

「菜緒の声聞きたかっただけだから。それだけだから、じゃあまたね」

弘人はそう言うと電話を切った。

その時胸が甘く痺れる様な不思議な気持ちに襲われた菜緒。

それは何処か懐かしいような感覚。

彼女はそれがどう云う意味なのかどうしても確かめたくなり、カバンを手にすると弘人がいる会社に向かった。

今確かめなければいけない。そんな気持ちになって・・・。

菜緒は母親に「弘人くんに逢いに行って来る」そう告げると玄関を出て行き、母親は娘の中で何かが変わり始めているのを感じ、前に進み始めた娘の未来を願わずにはいられなかった。


つづく・・・


さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 18話 ≫
今にも雨が降り出しそうな5月の夜。

菜緒は弘人に逢う為に元町にある会社に向おうとしていた。

マンションの前の通りに出てタクシーを停めようとするが、早く彼の元へと行きたい気持ちとは反対に、なかなかタクシーが捕まらない。

そこへ兄の達也が車で帰ってくるのが見え、彼女は車を停め窓から中を覗き込み「お兄ちゃんお願い。元町のお店まで連れて行って」とお願いをした。

「こんな時間に行ってどうするんだよ」

「弘人くんに逢いに・・・。まだ残業してるんだって」

「は? 別に今逢いに行く必要ないじゃないか!明日でもいいだろ」

「今じゃなきゃダメなの。どうしても今、確かめたいの」

「確かめたいって何を?」

「・・・・・・・」

「だから何?」

「あたしの気持ち」

「お前の気持ち?」

「そう。今あたしの中にあるこの気持ちが何なのか知りたいの。
弘人くんに逢って確かめたいの」

菜緒が兄の目を真っ直ぐに見つめてそう答えると、妹の気持ちが痛いほど達也の胸には伝わってきた。

「分かったよ。その代わり俺が連れて行ってやるんだから、ちゃんと答え見つけて来いよ」

「うん。ありがとう」

妹がホッとしたようにお礼を言うと「やっぱりあいつなんだな。どうしてもあいつなんだな」達也が小さな声で呟き、それを聞いた菜緒には兄の言っている意味が分からなかった。

昔の出来事を憶えていないのだから仕方ない。

弘人の昔の事をずっと許せないでいた達也だが、これで本当に吹っ切れたような気がした。



元町の店の前で降ろしてもらうと、菜緒は4階にある企画課に向った。

ここまで来たのはいいけど、なんて言ったら良いんだろう?

そんな事を思いながらエレベーターを待つ菜緒。

いつもよりエレベーターが来るのが遅く感じるほど、今は早く彼に会いたい。

4階でエレベーターを降りゆっくりと企画課に向うと、少し開いているドアの隙間から明かりが漏れ「マジ終わんねぇ!!!」中から弘人の声が聞こえてきた。

深呼吸し、ドアノブに手を掛け開けようとした瞬間

「神崎さん、もう少しですよ。はい、コーヒーどうぞ!」

一緒に残業している女性の声が聞こえた。

「ありがとう。ごめんね、手伝わせちゃって」

「いいですよ。神崎さんのお願いなら、聞いちゃいます」

そう言って笑顔で弘人の腕に触れる女性。

その女性は弘人に思いを寄せている香川だった。

彼女が弘人の腕に触れた瞬間、菜緒の心が凍りつく。

嬉しそうに弘人と話している女性の表情を見て、彼女が彼を好きなんだと悟った菜緒は、ドアを開けることが出来ずゆっくりと後ずさりをしながらエレベーターの前に戻っていった。

ただ残業を一緒にしていたのが女性だっただけ。

別に腕に触れるくらい特別なことじゃない。

そう思っていても、溢れ出す涙。

頬を流れる涙を拭いながら、菜緒は前に裕子が言った言葉を思い出した。

「その時が来たら素直になりなさいよ」

彼女の言葉がそのまま帰りそうになる菜緒の足にブレーキを掛ける。



裕子 今がその時なんだよね?
きっとそうだよね?


つづく・・・
さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 19話 ≫
菜緒は心が凍るような、この胸の痛みに何故か覚えがあった。

弘人に触れる彼女の手が、楽しそうな声が、頭に焼きつき離れようとしない。

弘人くんが好き。今のあたしの心が彼を好きだと言ってる。

彼女は自分の気持ちにハッキリと気付いてしまった。

この胸の痛みも甘い痺れも、そう思うと納得がいく。

昔を思い出すことに拘っていたのは自分の方だと気がついた菜緒は、そのまま会社の入口で彼が出て来るのを待つことにした。

自分の気持ちに気付いた今、素直になりたかった。

昔も今もそこは変わらないらしい。

彼を待っている間に雨が降り始め、彼女は軒下で雨宿りをしながら一人雨の中、彼の事を思っていた。

今この気持ちを伝えなきゃダメになってしまう気がして・・・。

どれくらいの時間が過ぎただろう。

菜緒の体が冷え指先が感覚を鈍らせ始めた頃、弘人が香川と一緒に会社から出てきた。

軒下に一人立っている菜緒に気付き声を掛ける弘人。

「こんな所で何やってんだよ。濡れてんじゃんか!
風邪ひいたらどうすんだよ」

口では怒りながらも彼女の体を心配し、小さく震える菜緒に自分が着ていたジャケットを掛ける弘人に「それじゃ、神崎さん。お疲れ様でした」そう言って何もなかったように香川は一人駅に向かって帰っていった。

菜緒の表情を見て、彼女の思いに気がついた香川。

お嬢さんは神崎さんが好きなんだ。

これで本当に諦めなきゃダメだね。

「彼女いいの?」

唇を震わせながら問い掛ける菜緒。

「どうして?」

「さっき彼女といることろ見たの」

「そう。でも彼女とはなんでもないよ。確かに好意を持ってくれてるみたいだけど・・・。
それだけだよ。・・・気にしたの?」

「・・・・・・・」

菜緒の目から大きな涙がポロポロと零れ落ちる。

「菜緒?」

「今のあたしじゃダメかな?
昔の事憶えてないけど、弘人くんと過ごした時間も、見た景色も何も憶えてない今のあたしじゃダメなのかな?」

「・・・菜緒」

「今のあたしが弘人くんを好きになったの。
それだけじゃダメなのかな?」

目の前で小さく体を震わせながら一生懸命に思いを伝えてくる菜緒が愛しくて堪らない。

弘人はゆっくりと一歩を踏み出し、この5ヶ月間すぐ傍にいたのに、触れたくても触れることの出来なかった彼女を優しく抱きしめた。

やっと菜緒に触れることが出来た。この腕に抱きしめられた。

「ダメじゃないよ。今の菜緒も記憶をなくす前の菜緒も、どっちも俺の大好きな菜緒だよ。
ごめん。昔を思い出さなくてもいいって言いながら、やっぱり拘っていたんだな。
だから菜緒をこんなに苦しめてしまったんだな」

「昔を思い出してって言われる度に今のあたしを否定されているようで、どうしても素直になれなかったの。
ホントはもっと前に気が付いていたのかもしれない。弘人くんに惹かれていることに・・・。
もっと早く自分の気持ちに素直になっていたら、弘人くんを苦しめなくて良かったのに。ごめんね」

「もういいよ。今菜緒が俺の腕の中にいる。それだけでいいよ。
これから二人で新しい思い出作っていこう。
無くした記憶より、もっともっと長い人生一緒に歩んでいこう。
まだまだたくさん時間はあるんだから」

菜緒を抱きしめる腕にギュッと力を入れて、彼女を抱きしめていることを確認するように、弘人は何度も何度もキスをした。

彼女の柔らかい髪に、おでこに・・・。

菜緒がクスッと笑って顔を上げ瞳を閉じると、二人の唇が優しく静かに重なった。

弘人に抱きしめられながら、懐かしいようなホッとするような安らぎを感じる菜緒。

あたしの心が感じた気持ちは間違いじゃない。

弘人くんが好き。もう絶対に迷ったりしない。

菜緒の腕がしっかりと彼の背中を抱きしめた。

もうこの手を離したりはしない。

その時弘人は、昔菜緒が言った言葉を思い出していた。




「きっとあなたを見つけたよ。何処でどう逢っても」




どんな風に出会っても、きっとあなたを好きになる。

そう言ってくれた菜緒。

まさかその言葉の意味を、証明される日が来るとは思っていなかった。

弘人はクスッと笑みを漏らせると、もう二度とこの幸せが腕の中からすり抜けていくことがないように、愛しい彼女を優しくギュッと抱きしめた。


つづく・・・


さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 20話 ≫
菜緒をマンションまで送るタクシーの中、ずっと手を繋いでいる二人。

「菜緒が忘れてしまった二人の思い出は俺が覚えているから。
だから菜緒が知りたい時は聞けばいい。何度だって話すよ」

弘人が優しく穏やかな声で彼女に語り掛けると「ねぇ 弘人くんはあたしの何処を好きになったの?」

菜緒が彼に問い掛けた。

「それ聞くのかよ。言わねぇよ」

「何でも聞いて良いって今言ったじゃないのよ」

「違うよ。二人の思い出の話だろ!」

「・・・・・・じゃあ・・・あたしの事好き?」

「ここで聞くのかよ」

呆れたように呟く弘人に「ねぇ 好き?」菜緒はまた可愛く問い掛けた。

運転手を気にしながら「うん」小さく頷く弘人に「ちゃんと言って!」ちょっと不満を漏らす菜緒。

彼女の耳元に唇を寄せ菜緒にしか聞こえないような小さな声で「好きだよ」そう囁くと彼はクスッと笑った。

「何?」

不思議そうに問い掛ける菜緒。

「昔同じようなことあったな・・・と思って」

「そうなの?」

「記憶なくしても、菜緒は菜緒のままだよ」

そう呟くと弘人は彼女の手を握りなおして、優しく微笑んだ。

マンションに着きタクシーを降りた菜緒を「ちょっと待って!」弘人が引き止めると、振り向いた菜緒の目にチカチカとする明かりが見えた。

頭の奥で微かに誰かの声がする。

「ちょっと待って・・○☆※・・行くなって」

立ち止まり困惑した表情の彼女に問い掛ける弘人。

「菜緒・・・どうしたの?部屋まで送るよ」

彼女の手を取ると、彼はゆっくりと歩き出した。

「今日はもう遅いから、また改めてお父さんと話するよ。いい?」

「うん。弘人くんに任せるから」

「わかった。お父さんとちゃんと話するから。じゃあ、おやすみ」

彼女を部屋の前まで送ると弘人は待たせていたタクシーに乗って帰っていった。

部屋に戻り、今日一日で起きた色々な出来事を思い出す菜緒。

彼に抱きしめられた感触がまだ残ってる。

言葉に出来ない程の幸せを抱きしめながらも、菜緒はさっき聞こえた声が気になっていた。

あの声は誰?



次の日 弘人は社長室を訪れた。

「社長、今日の夜お時間を頂けませんか?
これからの事でお話したいことがあるんです」

頭を下げる弘人に菜緒の父親は神妙な面持ちで頷き「分かった。時間を作るよ」そう答え、この時彼が何を言いたいのか分かったような気がしていた。

午後8時 会社の近くのイタリアンレストランで二人は、軽くお酒を飲みながら話を始めた。

「話って云うのは菜緒のことかね?」

「はい。昨日菜緒さんとこれからの事話したんです。
それでまた、一から始めようって・・・。
菜緒さんは・・・菜緒は今の僕を好きだと言ってくれました。
僕も今の菜緒が好きです。
今はそれで良いんじゃないかと思ってます。
過去の記憶や思い出も大事ですが、これから先の未来の方がもっと大事だって二人で気付いたんです。
だからまた、二人で前を向いて進むって決めました」

堅く決心したと云う様な口調で、思いを口にする弘人。

「今日君に話があるって言われて、正直反対のことを言われるんじゃないかと思っていたんだよ。
そうか。菜緒が君の事を好きだと言ったのか・・・」

父親はホッとしたような顔で呟き「もちろん二人がそう決めたんなら、私に何も言うことはないよ。
でも本当にいいんだね。過去の記憶がもう戻らないとしても」

また彼に問い掛ける。

「はい。過去の記憶がなくても菜緒は菜緒ですから」

弘人の潔い言葉に父親は、もう娘を任せても大丈夫だな!そう確信をし、彼を自分に付けて勉強させる時期が来たのかもしれないとも感じていた。




その日の夜。弘人は母親と廉にも菜緒の事を話した。

「菜緒は昔の記憶がないから、母ちゃんや廉のこと憶えてないけど、それでもこれまで通りに接して欲しいんだ。
特別扱いとかしないで、普通にしてもらえるかな?」

「何言ってるのお兄ちゃん!
俺にとっても菜緒姉ちゃんは菜緒姉ちゃんだよ。
だからまたお姉ちゃんが遊びに来てくれたら嬉しいよ」

廉は心から喜んでいるようだ。

「あたしも二人が決めた事なら何も言わないよ。
これまで通りでいいんだね。大変かもしれないけど頑張りな」

母親の言葉に頷くと、また弘人と菜緒の時間がゆっくりと動き始めた。


つづく・・・

さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 21話 ≫
もうすぐ梅雨が明け、暑い夏がやってくる。

あの日から止まっていた時間を取戻すように、少しでも二人の時間を作るようにしている弘人と菜緒。

仕事の忙しい弘人にどうしても時間がない時は、菜緒は彼の家で母親や廉と一緒に彼の帰りを待つこともあった。

そして今週末行われる花火大会に行きたいと菜緒からメールが入り、弘人は仕事が時間までに終わるか不安に思いながらも、彼女にOKの返事を送った。

花火大会当日。

やっぱり待ち合わせ時間には間に合いそうにない。

「ごめん。ちょっと遅れるけど、必ず行くから待ってて」

彼から届いたメールを見て菜緒は残念に思ったが、彼が無理して時間を作ってくれていることは分かっていたから、仕方ないとも思っていた。

暫くして花火大会が始まる。

周りは幸せそうなカップルばかりで、一人で花火を見ているのは菜緒くらいだ。

賑やかな歓声の中次々と打ちあがる色鮮やかな花火を見上げていると、不思議な感覚に襲われる菜緒。

また目の前にチカチカと明かりがチラつき、その向こう側に花火を見ながら微笑む弘人の顔が見えた気がした。

これって記憶なのかな?

懐かしいような、甘酸っぱい思いが込み上げてくる。

それから1時間ほど遅れて、花火大会の会場に到着した弘人。

急いで彼女に電話する。

「もしもし今どこ?」

「○○の前だよ」

「わかった。直ぐ行くから待ってて」

暫くすると遠くから掛けてくる彼が見えた。

「ごめん。遅くなって」

息を切らせながら謝る弘人に「いいよ。ちゃんと間に合ったじゃない。ねぇ行こう」菜緒はそう言って右手を差し出し、二人は手を繋いで歩き始めた。

花火大会の会場近くの屋台の間をゆっくりと歩きながら、菜緒はぽつりと呟く。

「なんか懐かしい」

「懐かしいの?」

「うん。何でか分かんないけど、懐かしい気がする」

彼女の言葉を聞いて、記憶は消えてしまったけど心はちゃんと憶えてくれてるのかな?弘人はそんな風に思えて嬉しく
なった。

二人で手を繋いで見る花火。

あの日以来2回目だけど、今の菜緒にとっては初めての出来事。

それでいい。

こうやって少しずつ二人で思い出を作っていければ、それだって大切な二人の思い出になる。

花火を見て嬉しそうにしている彼女の横顔を見ながら、弘人はそんな風に思っていた。

「何?」

ずっと弘人に横顔を見つめられて菜緒は恥ずかしくなって彼に問い掛けた。

「なんか、可愛いなぁ・・・と思って」

微笑みながら答える弘人の肩を「ばか!」菜緒は照れくさくてちょっと強く叩いた。

「痛いよ。菜緒」

「・・・ごめん」

二人見詰め合って笑みを漏らせると「菜緒 今日ずっと一緒にいられる?」突然彼が問い掛けてきた。

思わず真顔になって「うん。いいよ」と答える菜緒。

今の菜緒にとっては、初めて彼と過ごす夜になる。

弘人は記憶をなくす前の菜緒とした、叶えられていない約束を果たそうとあのホテルに泊まろうと思っていた。

あの船の上で言った言葉。「初めてはステキな所で・・・」

今の菜緒にとって、これからの二人にとって特別な夜。

弘人は自分の思いが届くようにと思いながら、菜緒をゆっくりと抱きしめた。

ホテルの一室。

緊張した様子の菜緒をそっと抱き寄せ、彼女の髪に触れながら優しくキスをする弘人。

彼女の髪に、頬に、おでこに、そして唇に・・・。

お互いの気持ちを確認するように、二人の間に甘く優しい時間が流れる。

触れ合った肌から伝わる温もりが、彼の思いを教えてくれる。

溶け合う吐息に彼への愛が溢れ出す。

「菜緒」って彼に呼ばれただけなのに、それだけなのに彼女の瞳から光る雫が零れ落ち、弘人はそれを優しく指で拭うと脱いだスーツのポケットから何かを取り出した。

「菜緒 俺と結婚して欲しい」

そう言って彼が差し出したのは、彼女の誕生日に送ったエンゲージリング。

菜緒の母親から預かったままになっていたあの指輪だ。

「ホントに? ホントにあたしでいいの?」

「菜緒じゃなきゃダメなんだ。俺達ちょっと遠回りしたけど、今菜緒はここにいる。
あの悲しみも苦しみも、菜緒と一緒にいるだけで幸せなんだって気付く為にあったんだって思ってるよ。
これからも幸せでいる為に二人でいなきゃダメなんだ。
菜緒 それでいい?」

弘人はポロポロと涙を零す菜緒に問い掛けた。

「うん。弘人くんと一緒に幸せになる」

菜緒は思い切り彼に抱きつき、思わずベッドから落ちそうになる弘人。

「あぶねぇよ」

そう言って笑いながら弘人が彼女の左手薬指に指輪を嵌めると、自分の薬指で光り輝く指輪を見ながら菜緒は幸せそうに微笑んだ。


つづく・・・

さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 22話 ≫
次の日の朝、カーテンの隙間から眩しい朝の光が差し込み、眩しくて目を覚ます菜緒。

日差しを避けるように左手の甲を額に当てると、こつんと何かが当たった。

自分の左手薬指には、朝日に照らされキラキラと輝く指輪が・・・。

昨日の出来事は夢じゃないんだ。良かった。

ホッとしながら右手で指輪を包み込むように左手を握り、菜緒が隣でまだ眠っている彼の顔を見つめていると、暫くして弘人が目を覚まし眠そうな顔をしながら「おはよう 菜緒」そう言ってあくびをした。

思わずつられて菜緒もあくびをする。

「マネするなよ」

「してないよ」

そんな事を言いながら二人クスクス笑い合うと、弘人がそっと彼女を抱き寄せた。

「菜緒 昨日無断外泊したから、お父さん怒ってるかな?」

「弘人くんがシャワー浴びてる時にお母さんに電話したよ。弘人くんと一緒だからって」

「えっ?・・・マジ?」

弘人は驚いて菜緒を体から離した。

「いけなかった?」

キョトンとした表情で問いかけてくる菜緒に「いいんだけど、余計に心配してないかな?」そう答えながら弘人は眉間にはシワを寄せている。

「大丈夫なんじゃない?」

菜緒は彼が何を心配しているのか分からない様子で小さく首をかしげ、今更ながら緊張してきた弘人は思わず苦笑いをした。

菜緒のマンションにゆっくりと歩いて帰りながら、これからのことを話し合う二人。

「菜緒の両親には結婚決めたこと報告しないとな」

「そうだね。ねぇ・・・弘人くんの仕事はどうなるんだろ?」

「その事も話さないといけないな。
あと結婚してからの話なんだけど、いずれ会社を継ぐって事は月丘の籍に入るって事だよな?
それは仕方ないって思ってるんだけど、母ちゃんと廉の事なんだよ。心配なのは・・・。
廉が遠征とか合宿でいない日もあるし、帰るのも遅いだろ。
だから母ちゃんが心配で・・・ホントは一緒に住みたいって思ってるんだ。
やっぱりダメかな?」

「ダメじゃないよ。あたしは全然平気だよ」

「でもお父さんが何て言うかな」

結婚してもあたしの両親と住むわけじゃないんだし、その事も聞いてみよう」

二人は菜緒の父親にどうやって話を切り出そうかと、マンションに着くまでの間ずっと考えていた。




菜緒の家の玄関前で深く深呼吸する弘人。

正直、菜緒の父親と今顔を合わすのは気まずい気がする。

玄関を開け二人でリビングに向かうと、母親が一人ソファーに座って雑誌を見ていた。

「おはようございます。昨日はすみません。
菜緒を外泊させてしまって・・・」

彼が母親に頭を下げて謝ると「いいのよ。菜緒ももう子供じゃないんだし、弘人くんが一緒って聞いてたから心配なんてしてなかったのよ」母親は全く心配した様子もなく微笑んだ。

「あの~お父さんは、どちらに?」

恐る恐る問いかける弘人に「朝早くからゴルフ言ったのよ」母親はそう答えると「弘人くん、今ホッとしたでしょ?」クスッと笑いながら彼に問いかけた。

今の状況でホッとしない方がおかしい。

「今コーヒー入れるから、ゆっくりしていきなさい」

母親はコーヒーを入れにキッチンに向かい、二人はダイニングテーブルに向かい合って座った。

「ねぇ お母さんに聞いてみようか? さっきの話」

「これからの事?」

「お父さんに言う前にお母さんの意見聞いておいた方がいいと思うの。どう?」

菜緒にそう言われて弘人は黙って頷いた。

暫くして母親が、運んできたコーヒーを娘に差し出している時、彼女の視線が娘の指に止まった。

「菜緒・・・その指輪」

「うん。弘人くんに貰ったの」

嬉しそうにキラキラと輝く指輪を母親に見せる菜緒。

「じゃあ結婚決めたの?」

「はい。それを報告しようと思って此処に来たんですけど、お父さんがいらっしゃらないので日を改めます」

「もう、お父さんは大事な時にいないんだから」

呆れたように零す母親に「それでね、お母さんに相談があるんだけど」と菜緒は話し始めた。

「弘人くんと話したんだけど、結婚してもお母さん達と同居しないよね?
この家、お兄ちゃんいるし・・・。
それで弘人くんのお母さんの体の事もあるし、あたし弘人くんの家族と同居したいって思ってるの。
ダメかな?」

「お母さんはいいと思うけど、お父さんの考えは分からないわね。
それとなくお父さんに聞いてみましょうか?」

「でも、我がままじゃないですかね?」

弘人は不安そうに問い掛ける。

「お母さんの体のことがあるから、心配なのは当たり前よ。
我がままじゃないわよ」

母親は彼の気持ちを汲み取り、夫との橋渡しを申し出てくれた。

「それとね、お母さん。
弘人くんって月丘の籍に入るの?あたし神崎菜緒になりたいの」

「お父さんそんな事は言ってなかったけど・・・それも聞いてみましょうね」

「よろしくお願いします」

弘人が深々と頭を上げると、菜緒が彼を気遣うように優しく彼の肩に触れた。



その日の夜、菜緒の母親がゴルフから帰ってきた夫に二人の希望をそれとなく話してみた。

二人が結婚の意志を固めたこと。

弘人の母親の体が心配だから同居したいこと。

そして菜緒が神崎の姓になりたいと思っていることを・・・。

父親は「分かった。少し考えてみるよ」それだけ答えると、疲れた体を休めようと寝室に入っていった。

夫がどんな答えを出すのか、菜緒の母親も少し不安に思っていた。


つづく・・・

さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 23話 ≫
菜緒の父親から何も言われないまま数日が過ぎ、自分から行動を起こすべきなのかと悩んでいる弘人に「お父さんが考えてみるって言ってたから、もう少し待ってみよう」そう告げる菜緒。

彼女にそう言われ、彼はただ待つことしか出来ない自分に苛立ちさえ覚えていた。



金曜日の午後、企画課で仕事をしていた弘人の所へ桜庭がやってくると、弘人は不安と緊張に襲われた。

ゴクリと唾を飲み込み強張った顔をパチンと叩くと、父親の待つ社長室に向う弘人。

ドアの前で足を止め大きく深呼吸をしてみたが、そんなことで気持ちが落ち着くわけがない。

ドアをノックし緊張した面持ちで入ってきた彼に「呼び出してすまないね」菜緒の父親はそう謝りながらソファーに座るように彼に促した。

「呼んだのは他でもない、結婚の話のことなんだが・・・
あれから良く考えたんだがね、私としては正直「月丘」の籍に入って欲しいと思っていたんだよ。
しかし君に無理を言って会社を継いでもらうわけだし、姓が変わっても菜緒が娘なのは変わりない。
「月丘」の姓は達也が継ぐわけだから、君に無理に「月丘」の籍に入ってもらわなくてもいいと思ってね。
それで娘が喜ぶなら、そうしてやりたい。
それと同居の話だが、元々君がお母さんや弟さんを守りたいと言っていたことは承知していたんだし、私も君たちと同居するつもりはないから好きにしなさい。
ただどうしても譲れない事があるんだ。
披露宴のことなんだがね、君がいずれこの会社を継ぐと決まった以上、質素にとはいかないんだよ。
菜緒は派手にしたくないと言うんだが、いずれ後を継ぐ君のお披露目を兼ねて盛大にやりたいと思っているんだ」

「盛大にですか・・・」

盛大にと言われても弘人にはピンと来ない。

「昨日 菜緒と相談したんだが、結婚式は身内だけで行って、披露宴というか君のお披露目パーティーをどこか会場を貸しきって行おうと思うんだがどうだろうか?」

「あの~!会場って決まってるんですか?」

「いや、まだだが。何処か思い当たる所でもあるのかい?」

「それが菜緒との思い出の場所があって、そこで出来たらと思ったものですから」

「思い出の場所?」

「はい。菜緒は憶えていなくても俺達にとって大切な場所なんです」

「わかった。その場所で出来るか調べてみよう。
そこならいいんだね?」

「我がまま言ってるのは僕の方ですし、後を継ぐって事はそういう事も含めてだと覚悟していますから」

父親は彼の言葉を聞いてやっと笑みを漏らせた。

パーティーの事は喜んで!とは言えないが、それも仕方ないことだと思っている。

菜緒と結婚できる事。

母親、弟と同居出来る事。

その二つ以外に望むものなど何もないのだから。



二人が結婚を決めたことで、弘人は正式に社長の秘書として働くことが発表された。

もちろん菜緒との結婚、社長の後継者であることも・・・。

一時社内が騒然としたのは言うまでもない。

「ねぇねぇ 神崎さんってお嬢さんと結婚する為にこの会社に入ったんだって」

「それじゃあ誰のアプローチにも靡かないわけだよね」

そんな会話があちこちでされていて、もちろん香川の耳にも入っていた。

しかし自分が思った以上に冷静なことに彼女は驚いていた。

これで本当に終わっちゃったなぁ・・・。

ため息を漏らしながらも、何故か彼女は微かな笑みを漏らせている。



それから話はトントン拍子に進み、10月中旬弘人と菜緒は結婚することが決まった。

弘人のお披露目パーティーは彼の希望通りの会場。

7年前二人が出会った時と同じ季節に、あの会場で・・・。

そう弘人と菜緒がプールに落ちたあの場所だ。

二人の恋が動き出した大切な場所。

二人で下見を兼ねて訪れた会場で弘人は菜緒に話して聞かせた。

ここでの再開が二人の始りだった事を・・・。

何も憶えていないとはいえ、此処は菜緒にとっても大切な場所になる。

新しい生活のスタートライン。

パーティーの打ち合わせ、菜緒のドレスの試着、それに新しい部屋探し。

パーティーまでの日にちが短かったこともあり二人は大忙しだったが、忙しくても楽しい幸せな毎日だった。


つづく・・・


次回はいよいよ結婚式だよ。


さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 24話 ≫
そしてとうとう、弘人と菜緒の結婚式当日が訪れた。

吸い込まれそうな程青い雲ひとつない晴れた日。

結婚式は横浜の教会で身内と親しい友人だけで行われた。

久しぶりに集まったメンバーは、甲、亜祐太、裕子の3人だ。

菜緒のウエディングドレス姿を見て、興奮気味の裕子。

「菜緒 すっごくキレイ。よかったね。今日が迎えられて本当に良かったね。
菜緒 弘人くんと幸せになってね」

「ありがとう 裕子。裕子のおかげだよ。
裕子が言ってくれたあの言葉があったから、今日があるんだって思ってる」

「・・・菜緒」

目頭が熱くなりハンカチを当てる裕子。

「もう、裕子が泣かないでよ。あたしまで泣きそうになるでしょ!」

そう言って菜緒は裕子をそっと抱きしめた。

そして少し遅れて弘人が部屋に入ってくると「お前なんだそれ!」甲と亜祐太が彼の黒いタキシード姿を指差して笑った。

「お前の白のタキシードより良いだろ!」

甲に向いて文句を言う弘人に「どっちも、どっちだよ」亜祐太が呆れたように呟き笑ってる。

「甲 今日はありがとうな。りなちゃんにまでお願いして」

「いいよ。思い出に残っていいじゃんかよ」

そう言って自慢の娘の頭を優しく撫で微笑む甲。

菜緒のウエディングドレスのベールを持つ役目を、甲の愛娘に頼んだのだ。

「今日は来てくれてありがとうね。このドレスかわいいね」

跪き甲の娘に優しく話しかける弘人。

「お前の娘なのに可愛いって可笑しくね?」

そんな事を言って弘人が甲に怒られていると「ねぇ 弘人くん、夜大事な話があるの」突然菜緒にそういわれた。

思い当たることがない弘人は首を傾げる。

「いいけど、今じゃダメなの?」

「うん。二人で話したい」

さっきまで嬉しそうに笑っていた菜緒はこの時、一人ずっと悩んでいた事を彼に打ち明ける決心をしていた。




控え室にいる両親に挨拶に向かう菜緒。

「俺も一緒に行こうか?」

弘人がそう問いかけると「大丈夫」彼女は優しく微笑んで応えた。

控え室のドアを開け「お父さん、お母さん」菜緒が声を掛けると、両親は振り返り娘の晴れ姿を見て顔を見合わせて微笑んだ。

「菜緒 弘人くんと幸せになりなさい。
その為にお前たちの結婚を認めたんだからな」

父親はそう言ってウエディングドレス姿の娘を優しい眼差しで見つめた。

「お父さん、お母さん、弘人くんとの結婚を認めてくれてありがとうね。
あたし今すっごい幸せだよ。もうね、感謝しきれないくらい幸せだよ」

その時、菜緒の頬を涙がつたい「あらあら、お化粧が取れちゃうわよ。それに幸せな日に涙は似合わないわ」母親はそう言って娘の涙を優しくハンカチで拭き取った。

「お兄ちゃん 色々心配掛けてごめんね。
お兄ちゃんが助けてくれた命大切にして、あたし幸せになるからね」

お礼を口にする菜緒に「今更何言ってるんだよ」そう言いながら背を向ける達也。

どうやら、目頭が熱くなったのを気付かれたくなかったようだ。



準備が整い、予定時刻に結婚式が始まった。

父親と腕を組み、ゆっくりとバージンロードを自分に向かって進んでくる菜緒を見ながら、弘人は思っていた。

やっとこの日が迎えられたと・・・。

菜緒と出会って7年の月日が流れた。

お互いがまだ子供で、好きと云う気持ちだけではダメなんだと泣きながら別れた日。

もう二度と二人で同じ時間を過ごすことはないと覚悟した。

それでもお互いを必要とし、決して忘れることが出来なかった「たったひとつの恋」

二人で大切に育ててきた思いは、間違いじゃなかった。

たくさんの悲しみを乗り越えて来たからこそ迎えられる今日と云う日。

菜緒 これから二人で歩む人生。

きっと色んな出来事があるだろうけど、その度に俺は隣にいる君の笑顔に助けられるんだ。

これまでがそうだったように・・・。

そして菜緒にとっての俺もそうでありたいと思ってる。

ねぇ 菜緒

俺はホントに君を愛しているよ。




星の瞬くキレイな夜。

弘人のお披露目パーティーが始まった。

何百人と云う会社関係者が招かれ、弘人は父親と一緒に挨拶に回るのに大忙しで、菜緒は裕子や甲、亜祐太の元に行き「ごめんね。ほったらかしにして」そう謝った。

「いいよ。菜緒や弘人くんが主役なんだから、あたし達のことは気にしないの」

裕子はそう言って申し訳なさそうにする菜緒に、他のお客様の相手をするように促している。

甲と亜祐太と云えば、そんな事気にも止めずご馳走をガツガツと食べていた。

「しかし懐かしいなぁ この会場」甲があたりを見回して呟く。

「まさかあの時、弘人と菜緒ちゃんが結婚するとは思わなかったよな」

亜祐太も昔を懐かしんで微笑んだ。

「そう言えば、あの時弘人と菜緒ちゃんプールに落ちたよな」

「落ちた、落ちた」

二人が手にした料理をテーブルに置き、笑いながらプールに近づいた時弘人が現れ「よっ!」二人の肩を組んできた。

「どうしたんだよ」そう問いかける弘人。

「いやぁ お前ら二人あの時プールに落ちたよな・・・って話してたんだよ」

「そうそう、めっちゃ寒かったんだよな」

弘人が笑いながら話すと「あん時面白かったよな。こんな感じで弘人と菜緒ちゃん落ちたべ?」

甲がふざけながら真似をした。

その甲の肩をふざけて軽く押す弘人。

すると甲は思い切りバランスを崩し、思わず隣に居た亜祐太の腕に捕まった。

そして・・・・・・大きな水しぶきを上げながら二人してプールへ。

それを見て弘人はビックリして口をポカンと開けている。

「弘人 お前なにすんだよ」

亜祐太が怒るのも無理はない。

「これ一着しかないスーツなんだぜ」

甲が泣きそうな顔で呟くと「ごめん、ごめん。まさか落ちるとは思わなくて」弘人は手を合わせて謝りながらも、涙を堪えて笑ってる。

そしてその様子を少し離れたところから見ていた菜緒の目の前が、またチカチカと光りだした。

今までとは違い、とても強い光が彼女を襲う。

次の瞬間、菜緒の頭の中に色々な映像が一気に流れ始める。

魚をかけられた出会い。

一緒に落ちたプール。

ガゼボの下に駆けてくる弘人。

お祭りで手を繋いで走ったこと。

初めてのキス。






数え切れない程の思い出が次から次へと溢れ出し、それと同時に菜緒の瞳からも止め処なく涙が流れ始め、それに気がついた弘人が彼女の元へ駆け寄った。

「菜緒 どうした? 何でそんな泣いてんの? 菜緒?」

「あたし・・・あたし・・・」

「菜緒?」

「思い出したの。全部思い出した。
弘人と出逢った階段も、一緒にプールに落ちたことも。
泣きながら手を繋いで別れた事も、北海道に行く日に弘人がプロポーズしてくれたことも。
全部全部思い出したの!」

「菜緒? ホントに?」

「ホントにホント。弘人大好き!!!」

そう叫びながら菜緒は彼に抱きつき、弘人も彼女をしっかりと抱き留めた。

全身で喜びを表現するように、何度も何度も抱き合って笑う二人。

すると周りにいた招待客から拍手が沸き起こった。

事情を知っている人も知らない人も、皆一緒になって喜んでいる。

甲と亜祐太を除いては・・・。

二人は寒くて、それどころではないようだ。

服を乾かしてもらっている間中、弘人に文句を言う甲と亜祐太。

「お前ねぇ 何考えてるんだよ」

「俺のスーツどうしてくれんだよ」

「ホントごめんって。でもそのおかげで菜緒の記憶戻ったんだ。
お前らには感謝してるよ。ありがとな」

弘人に礼を言われて怒れなくなった二人を見て、裕子は必死で笑いを堪え肩を揺らしている。

その時菜緒はと云うと、主役の二人が会場を離れるわけにはいかないので、弘人がいない分父親と一緒に招待客に挨拶をして回っていた。

「もう、いいよ。そうだな。
菜緒ちゃんの記憶が戻ったんだから、俺たちが落ちたのも無駄じゃなかったな」

甲が優しい笑みを浮かべながらそう告げると「なんか納得いかねぇ」亜祐太がボソッと呟いた。

「そう言うなって。なっ!」

弘人が亜祐太の肩を抱いてニコッと笑うと「俺なんか言い包められてる気がする・・・まっいいか」亜祐太もつられて笑みを漏らせた。

こんな形で菜緒の記憶が戻ると誰も想像出来る訳もなく、偶然とは云え弘人はただただ驚いていた。



つづく・・・


次回、最終回です!


さがしもの 弘人と菜緒 ≪ 最終回 ≫
パーティーが終わり互いの家族が集まり帰る準備をしていると、弘人の母親は菜緒の両親に「これから弘人の事よろしくお願いします」そう言って頭を下げた。

「兄をよろしくお願いします」

慌てて隣にいた廉もお願いすると「こちらこそ、何も出来ない娘ですがよろしくお願いしますね」と彼女の母親も頭を下げた。

「お母さん 何も出来ないって言わなくてもいいでしょ!」

ちょっとふくれっ面の菜緒を見て、皆でクスクスと笑い合う。

「しかし、菜緒の記憶が戻るとは思わなかったなぁ。
もう無理だと思っていたんだよ。彼らに感謝しないといけないな」

菜緒の父親がそう言うと、その隣で「そうよね。今日戻るなんて奇跡よね」母親が娘の髪を優しく撫でながら呟いた。

「ねぇ 菜緒姉ちゃん。これで本当に僕のお姉ちゃんだね」

廉が嬉しそうに告げると「そうだね、あたしも弟欲しかったから嬉しいよ」菜緒は幸せいっぱいの笑顔で廉に答え、それを周りの皆は微笑ましい気持ちで見ていた。

すると達也が弘人の傍に行き、彼にやっと聞こえるような小さな声で「妹を頼むな」ボソッと呟き、弘人はやっと達也に認めてもらえた気がして、心からホッとした。

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

菜緒の父親がそう声を掛けると「お兄ちゃんは今日は帰らないんだよね?菜緒姉ちゃんとホテルに泊まるんでしょ?」廉が問い掛けてきた。

「あぁ 今日くらいは二人で過ごしなさいってお父さんが言ってくれて」

「家じゃ、イチャイチャ出来ないもんね」

そう言ってからかってくる弟の首に腕を回し、思い切り絞めるフリをする弘人。

何だか夢の中のような出来事だった一日が、こうして終わっていった。




ホテルの部屋に着くと、弘人はずっと気になっていた事を菜緒に問いかけた。

「ねぇ、菜緒。話があるって言ってたけど何?」

ベッドに座っている彼の隣に腰を下ろし、今の自分の気持ちを素直に話し始めた。

「あのね、結婚決まってからずっと考えていたんだけど、あたし不妊治療受けてみようと思うの」

「不妊治療?」

「そう。弘人は関係ない、それでも良いって言ってくれたけど、あたしやっぱり弘人の子供欲しいの」

「でも不妊治療って辛いって聞いたことあるよ」

「知ってる。色々調べたの。金銭的なことも含めて。
不妊治療しても奇跡に近い確立でしかないんだけど、それでも何もしないでありもしない奇跡願うより、0.000001%でも良いから、可能性があることに賭けたいの・・・ダメかな?」

「でも不妊治療して、それでも妊娠しなかった時、菜緒落ち込んだりしない?

菜緒が辛い思いするのもう嫌なんだ」

「大丈夫!その時は弘人に抱きしめてもらうから」

「それはもちろんだけど・・・心配だなぁ」

弘人は菜緒の体に無理をさせてしまうのではないかと心配で、あまり乗り気ではないようだ。

「それとお金の事は、もう両親に頼んだから」

「えっ!それは俺がちゃんとするよ」

「これは病気の治療の一種だからってお父さんが」

「でも・・・」

「娘にやってやれることがあって良かったって言ってたよ」

「いや・・・でも・・・」

「分かった。半分こって事でいいじゃない」

「半分こって・・・」

「その分、廉くんが大学行くお金に使えばいいじゃない。ね!」

結局弘人は、そのまま菜緒に押し切られてしまった。

もしかして彼女はこう見えて、旦那を尻にひくタイプなのだろうか?




そして記憶を取り戻した菜緒は、春から本格的に養護学校に戻ることになった。

春まではアルバイトと云う形で週に3回程学校に通い、ゆっくりと色々な事を思い出しながら生活を整えていけばいいのだ。

結婚してから弘人は益々仕事が忙しくなったが、家で菜緒が待っててくれると思うとそれだけで頑張れたし、自分を認めてくれた父親の為にも早く一人前になろうと努力を惜しまず必死に働いた。

その年の年末、二人は新婚旅行に向かった。

二人が訪れたのはホエールウォッチングが見られる南の島。

昔で交わした「いつか一緒に鯨見に行こうね」って約束を果たすために・・・。




それから ~5年後~

赤レンガの前を小さな子供を肩に乗せ歩いている弘人がいた。

近くには小さな子供を抱っこした菜緒もいる。

結婚して約3年後。

不妊治療を続けていた菜緒は、奇跡的に彼の子供を授かっていた。

しかも双子の男の子を・・・。

妊娠を知った時の弘人の喜びようと云ったら凄かった。

奇跡を信じて治療を続けていた菜緒とは違い、期待してダメだった時の事を思うと怖くて、弘人はあまり希望を持たないように自分に言い聞かせていた。

でも心の奥では強く強く願っていたのだ。

この手に子供を抱きたいと・・・。

だから菜緒から報告を受けた時は、嬉しさの余り瞳を潤ませ何度も何度も「本当に?」と聞き返した。

帝王切開で産んだ双子も、もうすぐ一歳の誕生日を迎える。

忙しい合間を縫っての休日、子供たちと楽しそうに遊ぶ弘人を見て菜緒は思っていた。

どうしても彼を父親にしてあげたかったと・・・。

その思いだけで辛い不妊治療にも耐えられたのだ。

ねぇ、弘人。

この子達は大きくなったらどんな恋をするんだろうね。

あたしと弘人のような「たったひとつの恋」見つけられるかな?

あたしは何度だって子供たちに話して聞かせるよ。

ママがどんなにパパを好きか。

パパがどんなにママを大事にしてくれているのか。

そしてパパとママの子供に産まれてきてくれてありがとう。って・・・

弘人 あなたがいてくれたから、今のあたしがあるんだよ。

あなたに出逢えたから幸せの意味を知ることが出来たの。

ありがとうね 弘人。




「…パ……パ…パパ」

突然、弘人が肩に乗せている長男が声を出した。

「菜緒!・・・菜緒!」

驚いて彼女の方を振り向く弘人。

「今パパって言ったよね?」

「言ったよな。絶対に言ったよな?」

すると「…パ……パ…パパ」菜緒が抱いている次男も声を発した。

「すごい、すごいよ弘人。二人がパパって言ってるよ。
あたし最初はママじゃなくてパパって言って欲しくて、ずっとパパって教えてたんだよ」

「お前、そんな事してたの?」

「だってそうしたかったんだもん。やった~!!!!」

子供を抱きかかえたまま、嬉しそうにクルクルと踊るように喜んでいる菜緒。

そんな彼女を弘人は優しい眼差しで見つめた。

菜緒 お前って凄いな。

奇跡としか思えなかった子供産んでくれて、今度は「最初はパパって言って欲しかった」と言って俺をビックリさせるんだな。

今思えば、俺はいつもお前に驚かされてばかりだったよな。

最初の出会いも、再会も、恋に堕ちた瞬間もいつもそうだった。

ねぇ、菜緒。

俺たち二人で探すって決めた「さがしもの」は見つけたと思っても、またすぐ次を探さなくちゃいけなくなって結局ずっと探してる気がするんだ。

俺たちはもっと、もっと幸せになれるはず。

だから「さがしもの」が終わることなんてきっとないんだ。

もしかしたら「さがしもの」が見つかったのかどうかは、誰にも分からないのかもしれない。

もし分かるとすれば、人生が終わるその瞬間なのだろう。

だから菜緒。

これからも一緒に「さがしもの」を一つずつ見付けて行こう。

どんな事があってもお前となら、探し続けられる気がするんだ。

だからこれからも、ずっと一緒に生きていこうな 菜緒。




「さがしもの 弘人と菜緒」 おわり



おまけの話もあるので、良かったら読んでね!




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さがしもの 弘人と菜緒 ≪おまけの話≫
今日は双子の息子、慧(けい)と詠(えい)の1歳の誕生日。

神崎家では、お祝いの準備が進められている。

菜緒の母、弘人の母、そして菜緒。

三人仲良くキッチンに並んでご馳走の準備をしていると「誕生祝いなんだからレストランでもよかったんじゃないのか?」菜緒の父が不満げに漏らした。

「もう、お父さんは・・・。何度も言ったでしょ!
あたしも弘人も派手なのは好きじゃないの。
それに二人の誕生日は家でお祝いしたいの。
慧も詠もじっとしてないから、レストランだと落ち着かないんだもん」

「そうよね。あの子達元気が良すぎるのよ。
それに廉くんが今日は合宿でいないし、また日を改めましょうよ。
ね、お父さん!」

菜緒の母が娘の意見に頷き夫を宥めると「それにしても弘人遅いね」彼の母が心配そうに壁に掛けられている時計を見上げた。

「頑張って早く帰るって言ったんだけど・・・」

菜緒が心配そうに暗くなった窓の外に目をやると、奥の部屋から大きな泣き声が聞こえ「あっ 二人とも起きたみたい」そう言って彼女は小走りで子供たちの元へ向った。

涙で顔をグチャグチャにし指しゃぶりをする慧と、寝起きなのにご機嫌の詠。

二人を抱きかかえ戻ってくると「この子達は本当に間逆よねぇ」菜緒の母が詠を受け取りながら呟いた。

「こういう所は似てないのに、ふとした時にやっぱり双子だなぁ・・・って思うのよね。
喋りだしたタイミングも一緒だし、歩き出した日も一緒。
最近なんて寝てる時に寝返り打つタイミングも一緒なんだから」

「あたし達にはわからない絆があるのかねぇ」

弘人の母がそう言って手を差し出すと、慧がゆっくりと手を伸ばした。

「こういう時双子っていいですよね。お母さんとあたし、孫の取り合いにならなくて」

菜緒の母がクスッと笑いながら呟くと「ホント!双子で良かったですね」弘人の母も笑みを漏らせた。

すると「3人いれば良かったんだ」菜緒の父が不満そうに呟くのが聞こえ「もうお父さんまで何言ってんの?」菜緒が呆れ顔で父の顔をみると、自分も孫を抱きたいと言うように父は妻に催促していた。

どうやら二人では足りないようだ(笑)

それから暫くすると玄関を開ける音が聞こえ「遅くなってごめん」声と共に弘人がリビングに入ってきた。

「もう、遅いよ弘人」

「ごめん。ごめん。
慧と詠へのプレゼント取りに行く時間今日までなくて、帰りに寄ってきたんだ」

「えっ? 二人にはプレゼントの玩具買ってあるよ。 
あたし言ったよね?」

「そうじゃなくて、俺がプレゼントしたかったんだよ」

そう言って弘人は手にしている袋を持ち上げた。

「弘人・・・それっ」

菜緒が苦笑いをすると「いいだろ!小さい子供用の特注したんだ」弘人は自慢げに彼女に差し出した。

「弘人・・・まだ二人1歳になったばかりなんだけど」

「うん。分かってるよ」

「分かってるって・・・」

「慧、詠、おいで。パパからのプレゼント~!」

そう言って弘人が双子に送ったプレゼントは小さなグローブとボール、そして玩具のバット。

「弘人くん。それはまだ早いんじゃないか?」

菜緒の父もさすがに苦笑いしている。

「そうですかね? 俺すっげぇ楽しみなんですよ。
こいつらとキャッチボールするの。
早く大きくならないかなぁ・・・」

二人を同時に抱き上げながら幸せそうに微笑む弘人を見て、呆れながらも菜緒は優しい笑みを漏らせた。

「もう、弘人ったら・・・」

「菜緒ちゃん 益々弘人親バカになってない?」

「あたしもそう思います」

菜緒と弘人の母は顔を見合わせてクスクスと笑いあった。




祝いの席も終わり寝る準備の整った弘人と菜緒の寝室。

ダブルベットが2個並べられ、その上には寝息を立ててスヤスヤ眠る詠と菜緒が横になっている。

その傍には慧を抱きゆらゆらと揺らせ寝かしつける弘人の姿が・・・。

「弘人 代わろうか?」

「いやいい。いつも俺が帰った時は二人とも寝てるから。
だから今日くらい、俺が寝かしつけるよ」

「でも慧は寝るまで時間掛かるよ」

「詠は寝つきも寝起きもいいのに、慧はどっちもダメだな。
菜緒みたいに手が掛かる」

「えっ 弘人それ酷くない?」

拗ねて尖らせている菜緒の唇に可愛くキスをする弘人。

「だって俺は手が掛かる子供じゃなかったし、絶対に菜緒に似たんだよ」

「・・・・・・・・・・・」

確かに弘人の言うことの方があっている。

「双子なのに面白いよな。
詠はマイペースで手が掛からない。
慧は我がままで甘えん坊。
そのくせケンカすると、絶対に詠が勝つんだよな」

「そうだね。この子達見てるとホント楽しい」

菜緒は寝息を立てる詠の髪を優しく撫でながら呟いた。

「あっ 菜緒。俺のスーツのポケットにあるモノだして」

慧を寝かしつけている弘人が菜緒にお願いをすると、菜緒はベッドから起き上がり弘人が脱いだスーツの左ポケットから小さな箱を取り出した。

箱の中に入っていたのは、彼がデザインしたと云う指輪。

「それは、菜緒に」

「えっ あたしに? どうして?」

「今日は子供らの誕生日だけど、菜緒の誕生日でもあるから」

「あたしの?」

「菜緒が母親になって1年。ママになった記念日だから。
菜緒 一年間お疲れ様」

「・・・弘人」

「いつも仕事忙しくてごめんな。でも菜緒にはホント感謝してるよ。
菜緒のおかげで、俺は幸せでいられるんだから」

「そんな事ないよ。弘人があたしを幸せにしてくれてるんだよ」

「俺の幸せはね。菜緒とこいつらが幸せでいてくれる事。
お前らが幸せだったら、俺も幸せなんだ。
だから俺はこれからもお前らを幸せに出来るように頑張るよ」

「弘人」

菜緒は瞳を潤ませながら慧を抱っこしている弘人の背中に抱きついた。

「菜緒 来週デートしようか」

「デート?」

「一日こいつら母ちゃん達にお願いして、二人でデートしね?」

「ホントにいいの?」

「いいよ」

「弘人 大好き!」

零れ落ちそうなほどの笑顔を見せる菜緒を見て弘人はクスッと笑い、自分の腕の中にある小さな命を見つめながら幸せを噛み締めた。



菜緒 お前がずっと笑っていられるように俺は頑張るよ。

お前が笑っていられる日々は、きっとこいつらも、俺も幸せだと思うから。

お前の笑顔は、俺達家族の「幸せへの道しるべ」なんだよ。

菜緒 ずっとずっと、愛してるよ。 




END



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あなたの笑顔  わたしの涙 ≪ 1話 ≫
~第1章~ 「 あなたが好き 」

平野理央奈 18歳 星南女学園3年

あたしは今日いきなり恋をしてしまいました。しかも初恋です。

今まで、ハッキリ言ってモテない方じゃなかったけど

付き合いたいなって思う人がいなかったし

もし誰かと付き合うなら、大好きって思える人とって思ってたの。

そして今日、初めて出会った彼に一目惚れして

一気に心を持っていかれてしまった。

彼に一目ぼれしたのは、顔がかっこいいとかそんなんじゃなくて

(正直、顔もかっこいいんだけどね 笑)

あたしを助けてくれた時の彼の横顔がキリッとしてて、少し怖いくらいだったの。

なのに「大丈夫?」って聞いてきた彼の声が優しくて、

下を向いていたあたしが顔を上げると

もう一度「大丈夫?」って聞いて、ほんのちょっと微笑んだ彼。

そのギャップにあたしはやられてしまった・・・・。

でも、正直見た目マジメそうとは言えないタイプだったなぁ。

制服 北稜高校だったしなぁ・・・やっぱり不良だよね。

でも、いいの。だってやっと現れた人だもの!

あたしは自分の心が感じたもの信じるって決めたから

彼に会いに行ってみようと思ってるの。

でも、高校しか分かってないのに、会えるかなぁ・・・。



次の日の放課後 北稜高校正門前

お嬢様高校で有名な星南女学園の制服を着た、かわいい女の子が立っていた。

もちろん理央奈だ。

それだけで目立つと言うのに、その子は確実に誰かを待っている風だった。

高校から次々出てくる、ガラの悪い男子生徒の顔を一人一人

確認するように見ていると、3人の男子生徒が声をかけて来た。

「ねぇねぇ 誰待ってるの? こんなトコにいないで俺らと遊ぼうよ」

ちょっと怖いと思いながらも

「人を待っているので、ごめんなさい」と理央奈は答えた。

「待ってるって、誰を?」

「わかりません」

「は? 分からないって何?」

「名前知らないから・・・・」

「そんなヤツ待たなくていいって、俺らと遊んだら絶対楽しいって。

 ほら、行こうぜ!」

そう言って理央奈の手を掴んで男子生徒が引っ張ると

「止めてください あたし行きませんから」自分でもビックリするような

大きな声で理央奈がハッキリ断った。

すると男子生徒は逆ギレしたのか「ふざけんなよ」そう言って手を振り上げた。

その次の瞬間 その男子生徒の腕を掴んで止めたヤツがいた。3年の赤西だ!

「ねぇ 門の前で何やってんの? 女の子に手上げるって最低じゃん」

「赤西・・・・」

「くっそ ふざけんなよ 行くぞ!」

赤西が声をかけた事で、その男子生徒はあっさりどこかへ行ってしまった。

それだけで、赤西の学校での立場がうかがえる。

「ねぇ 君こんな所で何してんの?

 あんたみたいなお嬢さんが門の前に立ってたら目立つし

声かけられても、おかしくないでしょ」

そう尋ねる赤西に、理央奈は

「人を探してて・・・・でも名前が分からなくて

 だからココで待ってたら出てくるかな?って思って・・・・」

「名前が分からない人、探してるの?」黙って頷く理央奈

要領を掴めない赤西は質問を続けた。

「何でその人探してるの?」

「昨日、男の人に襲われそうになったの助けてくれたんです

 そのお礼ちゃんと言えなかったから、言いたくて・・・」

「ふ~ん そういう事ね」惚れちゃった訳だ・・・・赤西がそう思った次の瞬間

「仁 何やってんの? 早く行かないと聖待ってんだろ?」

そう言って亀梨と中丸が赤西に声をかけてきた。

「あっ!」理央奈が大きな声を出して亀梨の顔を見て、驚いている。

「もしかして亀なの?」赤西が亀梨を指差し尋ねる 黙って頷く理央奈

「あぁ 昨日の子だよね? 何でこんな所にいるの?」

「お前探してたんだって 名前が分からないから、ここで待ってたんだって」

「は?何で?」中丸が尋ねると

「あの・・・・だから」緊張してうまく言葉が出てこない理央奈を見て

赤西が助け舟を出した。

「お礼が言いたかったんだってさ 亀に! そうだよな」

「あの~昨日はありがとうございました。

 あたしちゃんとお礼も言わずに帰ってしまって

 わざわざ家まで送ってくれたのに・・・・ごめんなさい」

そう言って頭を下げる理央奈

「そんな事わざわざ言いに来たの? 別に気にしてねぇし・・・

 あんなことあったら動揺してるだろうしさ 気にしなくっていいのに」

亀梨がそう言うと

「あんな事って?」中丸が聞いてきた。

「なんか学校の帰りに、男に襲われそうになってたから助けた」

「お前 やらしいな」赤西が冷やかすと

「何でだよ お前だってそうするだろ!」亀梨は赤西を睨んでそう言った。

「まぁ こんな可愛い子が襲われてたら助けるよな」

ニヤニヤしながら亀梨の顔を見て赤西が言う。

ここまで来て彼に会えたはいいけど、これからどうしたらいいんだろ・・・・?

そう思っていたら「理央奈?」と星南女学園の女子生徒が話しかけてきた。

その女子生徒は理央奈に駆け寄り

「こんな所で何やってんの? もしかして朝言ってた人って北稜の生徒だったの?」

ビックリしたように聞いてきた。

正直、あまりお付き合いしたくない学校の部類ではある。

「あれ? マキちゃん?」

「えっ中丸くん?」

「だよね マキちゃんの友達なの?」

「まさか今朝言ってた男の子って中丸くん・・・・・・・じゃないね

 ケンカ強いわけないもんね」

「ちょっ、ちょっとマキちゃん それヒドくね?」

「間違ってないと思うけど」中丸を見て笑う理央奈の友達のマキ

「・・・・・・はい 間違ってませんね

 彼女が探してたのはこっち 俺の友達の亀」そう言って亀梨の肩を叩いた。

ちょっと頭を下げる亀梨。

「何? 知り合いなの?」驚いたように赤西が聞いてきて

「中学の同級生だよ」中丸がそう答えると

「ふ~ん・・・・ねぇ マキちゃんって言ったっけ

 この後時間ある? 俺ら仲間4人でカラオケ行くんだけど一緒にどう?」と

赤西はマキ達をカラオケに誘った。

マキは理央奈の顔を見て、少し考えた後で

「もちろんいいよ!じゃあ友達1人呼んでもいいかな?」と返事をした。

「マジ? やった~!!!」

「なんで中丸が喜ぶんだよ ば~か」赤西の冷たい目線が中丸に向く。

こいつ全然わかってねぇな・・・ホント鈍感だわ。

「じゃあ駅前のビックエコーに行ってるから、後からおいでよ。

 赤西って名前で入ってるから」

「わかった 絶対に行くから」マキがそう答えて、6人は一旦そこで別れた。



「理央奈の為だからお願い!」そう言って電話で話してるのはマキで

仲のいい涼子に一緒にカラオケに行くように頼んでいる所だ。

「だって北稜の生徒なんでしょ?大丈夫なの?」

「大丈夫だって、今会って話したけど全然怖そうじゃないし

 その内の一人は中学の同級生で、あいついい奴だから

 友達も絶対悪い奴じゃないって!ね 理央奈の恋がかかってるんだから

 協力してくれてもいいでしょ?理央奈の初恋だよ!」

「もう わかったよ 駅前のビックエコーね。今度おごってもらうからね」

「はいはい OKですよ 待ってるからね」

そう言って涼子との電話を切って

マキと理央奈はビックエコーの前で涼子が来るのを待った。

30分ほどして涼子が到着し、理央奈が涼子に謝った。

「ごめんね 急に無理言って呼び出して」

「まぁ今まで理央奈が無理言ったことないし、理央奈の惚れた男ってのも

 見てみたいし、気にしなくていいよ」涼子がそう言うと

「折角来たんだから楽しもうよ」そう言いながらマキが理央奈の手を引いて

赤西達の待つ部屋に向った。




あなたの笑顔  わたしの涙 ≪ 2話 ≫
「遅くなってごめ~ん」マキがそう言ってドアを開けると

「マジで来た!」聖がビックリしたように大きい声で喜んだ。

「え?信じてもらえなかったの?」マキが問いかけると

「いや だって俺ら北稜と星南の生徒がカラオケって

 なんか信じられねぇじゃん?」聖がぶっちゃけて答えた。

「じゃあ とりあえず座って自己紹介しない?

 あたしは星南女学園3年の唐沢マキ 中丸くんと同じ三中出身です」

「あたしは大沢涼子 同じく3年 あたしは西中出身で~す」

「あたしは平野理央奈 高校から、こっちに引っ越してきました

 よろしくお願いします」

「俺 赤西仁 二中出身でこっちの、亀と聖も同じ中学」

「田中聖で~す いきなり女の子と一緒にカラオケって聞いて

 めっちゃテンション上がってま~す よろしく!」

「えっと 亀梨和也です よろしく」

「亀 それだけかよ! 俺は中丸雄一 ゆっちって呼んでね!」

「呼ばねぇよ」男3人が声を揃えて突っ込んだ。

「で、男女で分かれて座ってても面白くないので

 男女男女で座りませんかねぇ」と赤西が意見を言うと

「そうこなくっちゃね」とマキが賛成をした。

「じゃあ 理央奈ちゃんだっけ・・・は亀の隣ね」赤西が気を利かせてそう言うと

「赤西くん 気が利くね~!」と涼子が言った。

「あっ 仁でいいよ」

「じゃあ 仁くんね」涼子がそう言うと

「俺、聖~!」

「俺ゆっち!」聖と中丸が手をあげる

「だから言わねぇって」聖に頭を叩かれる中丸

「あははは わかったよ ゆっちでいいのね?

 亀梨くんは亀ちゃんでいいのかな?」

「あぁ いいよ」涼子の問いかけに、そう答える亀梨

「OK じゃあ遠慮なく行くね」とマキが言った。

最初、いやいやだった涼子もなんだかんだとテンション高いみたいだ!

理央奈はといえば、亀梨の事が気になって他のメンバーのことなど

全然目に入っていない様子で、それを見て赤西はちょっと笑った。

なんでこんなかわいい子が亀に惚れたんだ?

だってどう言ったって俺ら北稜だぜ?ありえねぇ・・・

「じゃんじゃん歌って盛り上がろうぜ!」聖の呼びかけに

盛り上がるメンバー達だったが、主役の理央奈はというと

亀梨の隣に座ったことで、ますます緊張して何も話せない状態だし

亀梨はと言うと、今の状況に少し戸惑っているようだった。

二人以外のメンバーは大盛り上がりで、歌いまくっていたのだが

理央奈が緊張して何もリアクションを起こさないことに、マキがイライラして

「ねぇ みんな彼女とかいるの?」そう聞いてきた。

「誰もいませ~ん いたら放課後こいつらとツルんでねぇ」

そう言ってふざけて見せる聖

「確かにな」赤西が頷く

「じゃあ そっちは?」中丸の問いかけに

「いたらココに来てない!」そう答えるマキ

「そりゃそうだ」涼子と理央奈が顔を見合わせて笑っている。

「でもさぁ こう言っちゃ悪いけど、星南の生徒ってもっと

 大人しいイメージだったよな。 もっと喋りにくいかと思ってた」

聖がそう言うと、涼子が

「あたしも北稜って聞いた時は、ちょっと怖いかもって思ったけど

 全然そんなことないのね? めっちゃ話しやすいじゃ~んみたいな」

そう言って聖にニコッと笑いかけた。

聖はちょっと照れたように舌を出しながら頭をかいた。

「理央奈 あんたも歌いなさいよ いつもの入れたからね」

マキにそう言われて焦る理央奈

「え? うそ勝手に入れないでよ~!」

「だってあんた借りてきた猫状態じゃない 歌でも歌ってリラックスしなさいよ

 はい 理央奈の番だよ」そう言って無理やりマイクを渡された。

何気なくマキが選んだ大好きな曲を、渋々歌い始める理央奈

何度となく歌っているその歌の、一小節が理央奈の心をドキンとさせ

理央奈の瞳に覚悟が映る

~ この思いが強いのなら 傷ついて構わない ♪ ~

思わず聖と談笑する亀梨を見てしまう理央奈

「やっぱり理央奈の歌っていいよね」マキがそう言うと

「理央奈ちゃん、めちゃ歌うまいね」赤西が感心したように言った。

「でも仁くんもうまかったよ」

「マジで? でも亀もうまいんだぜ ほら亀も歌えよ」

「あぁ 別にいいけど・・・」

「別にって何だよ あれ入れてやろう!あれだ!」

中丸が亀梨の歌を選曲して入れる。

理央奈の歌が終わり次の曲が流れ始める

「あぁ~ これ理央奈が大好きな曲じゃん」マキが理央奈に向かって言うと

理央奈は黙って頷いて、瞬きもせず亀梨を見つめ歌に聞き入っていたが

暫くして亀梨が歌っている最中に急に席を立って、慌てて部屋を出ていった。

それを不思議に思ったマキが後を追う

廊下の壁際に立ち、背中を向けている理央奈

「理央奈どうしたの? 亀ちゃんに失礼じゃないよ」マキがそう言って

理央奈の顔を覗き込むと、目が潤んで今にも涙がこぼれ落ちそうだった。

「理央奈?」

「ごめん 失礼なことしたのは分かってるんだけど、まさかあそこで

 泣くわけにいかないと思って・・・・・自分でも何で涙出るのかわかんないよ」

「理央奈 ・・・・・・・あんたホントに亀ちゃんの事好きなんだね」

「・・・・・・・・うん」小さく頷く理央奈

「わかった あたし全面的に協力するよ

 友達もいい人そうだし。がんばれ 理央奈!」

「・・・・・・・・うん 昨日初めて会った人なのに何でだろね

 自分でも、何でこんなに惹かれるのか分かんないよ」

理央奈の頬を流れる涙をハンカチで拭きながらマキは言った。

「時間とか関係ないんじゃない? 理央奈の心がそう感じたんなら

 素直になってもいいと思うよ ね!」黙って頷く理央奈 

それをトイレから帰ってきた赤西は、偶然聞いてしまった。

そのまま理央奈をトイレに連れて行こうとしたマキは

赤西が聞いていたことに気が付いたのだが、何も言わずそのまま通り過ぎた。

ふ~んマジなんだ・・・・赤西は通り過ぎた理央奈達を振り返って見ていた。



部屋に帰った赤西は、亀梨の隣に座って耳元でコソコソ何か話している。

「は? なんだよそれ!」何か亀梨が怒っているようにも見えたが

周りは歌で盛り上がっていて気付いていない様子だった。

暫くしてマキが一人で帰ってきたので

「あれ? マキ、理央奈は?」涼子がそう聞くと

「ちょっとね」どう言っていいのか困ってマキは言葉を濁した。

マキが赤西の顔を見て、「何も言わないでよ」そんな顔をしたのに

涼子が気が付き、そっとマキの隣に来て「どうしたの?」そう聞いてきた。

「後で話すわ ココじゃちょっとね」マキがそう言ったので

涼子は理央奈に何かあったことは察しが付いた。

数分後、何でもないような顔をして理央奈が戻ってきたが

ちょっと目が赤いことは、マキたちには分かってしまった。

亀梨の隣に座った理央奈は、平静を装ってはいたがやっぱりおかしい。

「ねぇ 気分悪いみたいだけど大丈夫?」亀梨が理央奈に話しかけると

理央奈はビックリしたように亀梨の方を向いたが

目が赤いことがバレてしまいそうで亀梨の顔をちゃんと見ることが出来なかった。

「うん大丈夫! 何でもないの。ごめんね 歌の途中で出て・・・」

「いや それは別にいいけど、ホント大丈夫?」

「うん ありがとう」

こんなんじゃダメだ!ちゃんとしなきゃ!

マキたちがくれたチャンスなんだから・・・

理央奈は何度も何度も、心の中でそう呟いた。



あなたの笑顔  わたしの涙 ≪ 3話 ≫
理央奈は顔を上げ、思い切って亀梨に話し掛けた。

「亀梨くん あのね・・・・」

「亀でいいよ!」

「えっ亀・・・・・・?」

「何? イヤなら別にいいけど・・・・」

「そうじゃなくて・・・・・・・・分かった」

「で、何?」

「えっ?」

「さっき何か言いかけてたから」

「あっ メアド聞いてもいいかな?」

「いいよ 別に」

「ホントにいいの?」嬉しそうに言う理央奈に亀梨は

「別にメアドぐらい普通だろ!」そう言った。

普通なんだ・・・・あたしには特別な事なんだけどな・・・・

「あっ亀たちメアド交換してる~! 俺も交換して!」中丸がかわいく

涼子にメアド交換をお願いすると、「もちOK!」そう言って

赤外線でメアドの交換を始め、他のメンバーも交換しだした。

「ねぇねぇ もうすぐココ終わる時間なんだけど夕飯でも食べて帰らない?」

赤西がそう言うと理央奈が慌てたように立ち上がった。

「あ~時間忘れてた!電話してないよ!」

「マジ? 早く家に電話しなよ。お母さん心配してるよ」

涼子が理央奈にそう言って電話するように促した。

「え?どういうこと? 門限とか厳しいの?」聖が聞く

「そうじゃないの・・・ちょっと電話する間、男子は黙っててね」

マキがお願いをして、理央奈はすぐに家に電話を入れた。

「もしもし ごめん。

 マキたちとカラオケしてたら盛り上がっちゃって電話するの忘れてた。

 マキたちと夕飯食べて帰るから心配しないで

 うん分かってる。ちゃんとタクシーで帰るから。じゃね」

そう言って理央奈が電話を切ると、

「どういうことなの?門限じゃないなら何?」

男4人が不思議そうな顔をして聞いてきた。

「理央奈言ってもいい?」マキがそう聞くと

「いいよ 昨日亀梨くんにも助けてもらったしね」理央奈がため息をついた。

「あのね 理央奈ずっとストーカーにあってて・・・・

 昨日、理央奈を襲ったのが、そのストーカーなの」マキが説明すると

「もしかして、襲われたのって昨日が初めてじゃなかったの?」

亀梨が驚いたように聞いてきた。

「ううん 襲われたのは昨日が初めてなんだけど、

 最近、後を付けられたりしてて、だからいつもはマキたちが送ってくれたり

 タクシーで帰ったりしてたんだけど、昨日はマキたちに用事があったし

 まだ明るかったから、大丈夫かなって思って一人で帰ったの。そしたら・・・」

「襲われたって事か・・・」赤西が呟く

「うん」

「じゃあ今日も送っていった方がいいね」聖がそう言うと

「俺が送るよ」亀梨がすぐ答えた。

一斉にみんなが亀梨の顔を見ると

「何だよ 昨日も送って行って家知ってるし・・・っていいよイヤなら別に」

亀梨は少し拗ねたように言い

「誰もイヤなんて言ってないじゃないのよ ちょっとビックリしただけよ

 じゃあお願いするね あたし達が送るよりも頼りになるもんね」

マキがそう言って頼んだ。

涼子がそっと理央奈に「良かったね」って言うと

理央奈は下を向いて、少しニヤケそうになる顔を一生懸命に隠した。

7人でファミレスに向う途中、理央奈はなぜか後ろが気になり何度も振り返って

「どうしたの? あいつがいるの?」そう亀梨に聞かれた。

「ちょっと過敏になってるだけだと思う」

そう答えて理央奈たちは足早にファミレスに向った。



ファミレスでもメンバーのテンションは下がる事なく、楽しそうに話している。

理央奈の緊張も少し解れてきたのか、時々笑みがこぼれるようになっていた。

「理央奈ちゃん やっと普通に話せるようになったね」聖が思わず言ってしまい

「ばか!」って赤西が頭を叩くと

「何言ってんのよ。まだ猫被ってるよね~!」マキが理央奈の顔を見て笑った。

「あたし、そんなに違う?」

「全然違う!大人しすぎだよ」マキと涼子が声を揃えて言うと

理央奈は照れ笑いをして、俯いた。

「まぁ 徐々にってことでいいんじゃないですかね?」赤西がそう言うと

「徐々にって事は、また遊ぼうって事?」マキが問いかける。

「もちろん!ダメ?」

「全然OK!ぜひって感じ」涼子がちょっと可愛い子ぶって答えた。

「理央奈ちゃんもいいの?」聖が心配そうに聞いてきので

理央奈は嬉しそうに「うん!」って答えて、思わずチラッと亀梨の顔を見た。

理央奈と目が合った亀梨は、目を逸らし小さく笑みをこぼしていた。



ファミレスを出る頃にはすでに8時を過ぎていて、理央奈以外のマキと涼子も

赤西たちに送ってもらうことになった。

もちろん理央奈を送るのは亀梨だ。

駅前でみんなと別れ、理央奈と亀梨は歩いて理央奈の家に向った。

「いつも誰かに送ってもらうって言ってたけど、彼女らが送るの?」

「うん。迷惑かけて申し訳ないなぁって思ってるんだけど

 今はそれしか方法がなくて・・・・

 マキや涼子が無理な時は、お父さんに迎えに来てもらったり

 タクシーで帰ったりしてるの。」

「大変だな。・・・・・・もし誰も送る人いない時は言えよ。

 俺がダメでも、赤西たちもいるから・・・・誰か送れる奴いるだろうから」

「ありがとう・・・・・・・・亀梨くんって優しいね」

「普通だろ」

「普通じゃないよ。昨日だって助けてくれたし・・・・

 チカンにあってても、見てみぬフリする人少なくないんだよ。」

「最低だな。チカンするヤツも、見てみぬフリするヤツも。」

「・・・・・・・うん」

「警察には行ったの?」

「何度も行ったよ。でも・・・ 結局、直接的な被害が出てないから・・・

 でも、昨日の被害届け出したから、ちょっとは動いてくれそうなの」

「そっか 早く捕まるといいな」亀梨の言葉に頷く理央奈

するとその時、亀梨は何か視線を感じたような気がして、後ろを振り向いたのだが

後ろには人影もなく、薄暗い路地が続いているだけだった。

俺の気のせいか・・・・?

「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」

彼女が気にしたらいけないから、言わない方がいいよな

少しして理央奈の家に着き、亀梨が「じゃあ」と言って帰ろうとすると

「ねぇ また会いに行ってもいいかな?」って理央奈は勇気を出して聞いてみた。

「って言うか、メアド交換したんだからメールすればいいだろ」

「メールしてもいいの?」

「何の為に交換したんだよ」クスッと笑う亀梨

「ありがとう・・・・・・」

「何でお礼なんだよ お前面白いな」

「そうかな・・・・」恥かしそうに俯く理央奈

「じゃあ またな」

「送ってくれてありがとう おやすみなさい」

亀梨にお礼を言って理央奈は家の門を入っていき

亀梨はそれを見届けてから、駅の方へ歩きだした。




あなたの笑顔  わたしの涙  ≪ 4話 ≫
玄関を入ると母親が心配そうに、リビングから出てきて

「大丈夫だったの?」そう聞いてきた。

「うん 大丈夫だよ。今日は男の子に送ってもらったし・・・

 あっ昨日助けてくれた男の子に送ってもらったの」

「今日も送ってもらったの?」

「今日ね 彼の学校にお礼を言いに行ったの。

 そしたら彼のお友達とマキが知り合いでね、みんなでカラオケ行ったの」

「そう、でも遅くなると心配だわ」

「ごめんね 心配ばかりかけて・・・・」

「もう少し早く帰ってくるようにしてね」

「ごめんなさい」母親に謝りながらも心では

だって楽しかったし亀梨くんともっと話ししたかったんだもん・・・そう呟いていた。

理央奈は自分の部屋に入り、制服を着たままベットの上に転がった。

思い切って彼に、亀梨くんに会いに行ってよかった。

まさか、メアド交換できるなんて思ってもみなかったなぁ

あっメールしといた方がいいかな?

それとも、うざいかな?

あ~どうしたらいいんだろ・・・・

でもメールして良いって言ってくれたし、もう一度お礼言いたい!

「今日は送ってくれて、ありがとう 気をつけて帰ってね 

おやすみなさい   理央奈」

たったそれだけのメールを打つのに、何度も書き換えて

震える指で送信ボタンを押した。

あ~ぁ 送っちゃったよ・・・・・ 携帯を握り締め呟く理央奈

すると数分後、亀梨から返事が返ってきた。

「またな おやすみ」たったそれだけのメールなのに

理央奈にとっては、特別なメールになった。

夜寝るまでに、その亀梨からのメールを何度にやけながら見たことだろう。

帰り際「じゃあ またな」って言った彼のやさしい声が、耳に残って離れない。

結局、理央奈は携帯電話を握り締めたまま眠ってしまった。




一方、赤西に送ってもらうことになったマキは、赤西にあることをお願いした。

そう偶然聞いてしまった理央奈の思いを亀梨に言わないようにして欲しいと・・・

「もう理央奈の気持ち分かってると思うけど、絶対に亀ちゃんには言わないでね」

「言わないけど、分かるだろ!どう見ても亀のこと意識してんじゃん」

「亀ちゃんが気付くのはいいの。それはそれで・・・・

 でも他の人から聞くのは違う気がするの。もし言うなら理央奈の口から

 言わないとダメなんだよ 絶対に」

「ねぇ 理央奈ちゃんってホントに彼氏いないの?」

「彼氏どころか、今まで付き合った人がいないんだよ。

 正真正銘 亀ちゃんが理央奈の初恋なの だから大事にしてあげたいの」

「マジで?あんな可愛いのに彼氏いなかったんだ・・・・」

「正直モテるよ。今までに申し込まれた数なんてわからないくらい。

条件だけでみれば、文句ないって人もいたし・・・・

でもすっごい好き!って思う人じゃなきゃイヤなんだって」

「それが亀なんだ」

「うん そうみたい」

「わかった 俺からは何も言わない・・・・・あっ」

「何?まさかもう何か言ったの?」驚いてマキは赤西の顔を見た。

「いや さっきカラオケで『もうちょっと優しくするとか、話しかけるとかしろ』って」

「ばか!人に言われて優しくされても嬉しくないよ」

「それは大丈夫! 亀は人に言われたからって優しくするタイプじゃないから」

「じゃあ 何で言ったのよ」

「・・・・・・・・・・何となく?」小首をかしげてかわいく赤西は答えたが

マキは赤西の答えに呆れてため息が出た。

ホント大丈夫かなぁ・・・・



それからと言うもの、放課後駅前で待ち合わせて7人で遊ぶことが多くなった。

遊ぶと言ってもお金のない学生だから

いつもカラオケやゲームセンターに行けるわけではない。

大抵は街中をブラブラしたり

ファーストフードの店で何時間も話していたりするだけなのだが

それでも理央奈にとっては亀梨と同じ時間を過ごせる大切な時間だ。

そして帰るときは必ず亀梨が家まで送ってくれる。

いつものように皆と駅前で別れ、理央奈の家に向い歩き出す二人。

「そういえばさぁ・・・・・」亀梨が話し始めると理央奈は亀梨の顔を見た。

「お前ってずっと『亀梨くん』って呼ぶな なんで?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「いや 別に呼び難いんなら『亀梨くん』でもいいけど」

「一緒じゃイヤなの」理央奈がポツリと呟いた。

「えっ何が?」

「マキや涼子と同じ呼び方したくないの・・・・・それだけ」

亀梨は恥かしそうに下を向いて、そう呟く理央奈がかわいいと思った。

「変なの・・・呼び方なんてどうでもよくね?」

「そんなことないよ」理央奈が顔を上げて、はっきりとした声で言うと

亀梨はフッと笑って理央奈の顔を見た後、また前を向いて歩き出した。

すると理央奈は最初からずっと思っていたが、言えなかった言葉を口にした。

「あのね・・・・・・・・・」

「ん?」理央奈の方を向く亀梨

「ホントは『和也くん』って呼びたいなって思ってたの」

理央奈はまた俯いて話している。

「いいよ」

思いがけない亀梨の返事に理央奈は顔を上げて、亀梨の顔を見た。

「ホントにいいの?」

「いいよ でも、あいつらの前で呼ばれると冷やかされそうだな」

「わかった じゃあ皆の前では呼ばないね」

理央奈は嬉しくてニヤける顔を亀梨に見られるのが恥かしくて

また下を向いて歩いた。

二人で他愛もない話しをしながら歩いていると、また誰かの視線を感じて

亀梨は立ち止まって振り向いた。

その場所は、いつも亀梨が視線を感じて立ち止まってしまう路地。

なんでいつもこの場所で誰かの視線を感じるんだろう?

何か気味悪りぃ場所だな・・・

理央奈を送っていく度に感じる気持ちの悪い視線

でも亀梨が一人帰る時には、同じ場所を通っても何も感じない

それが意味するものが何なのか、この時の亀梨にはまだ分かっていなかった。

理央奈の家に着き、いつものようにさよならをする。

「じゃあ またな」

「送ってくれてありがとう・・・・・・・・・・和也くん」

理央奈は自分で「和也くん」って呼びたいと言ったくせに

いざ呼んでみると恥かしさで耳まで真っ赤になってしまい

亀梨の顔を見ることも出来なかった。

そんな理央奈の表情を見て

亀梨まで照れくさくなってしまいフフッと下を向いて笑った。

そしてまた、「じゃあな」そう言って駅の方へ歩き出した。

理央奈は亀梨の後姿を見ながら、自分の中の押さえられない気持ちを感じて

苦しくて切なくてでも愛おしくて、何度も小さくため息をついた。



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ホントに読めないんです。ごめんなさい。

諸事情で隠しコメントは受け付けていませんし、コメレスもしていません。

ごめんなさい


ひらり
プロフィール

   hirari

Author:   hirari
中1の男の子、小3の女の子の母です。

亀ちゃんが好きすぎて息子に呆れられ、旦那に「うざい」と言われたちょっとアホな30代です。

仁亀萌えしておりまして、腐った発言多々あります(笑)。

今後もKAT-TUNと仁、両方を応援していきますのでよろしく!



ひと恋の弘人で亀堕しました。

めっちゃ長い「ひと恋」感想、小説「さがしもの ~弘人と菜緒~」など書いてますので、良かったら読んでやってくだパイ。


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魂での亀ソロを見て頭の中に浮かんで来たストーリーを小説にしてみました。

切なくて甘いお話です。

良かったら読んでみてください。


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まだまだ下手くそですが、少しづつ書き続けていくので良かったら読んでください。

「さがしもの 弘人と菜緒」
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